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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9372号 判決

原告

日本一生コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

吉川六郎

原告

吉川六郎

右両名訴訟代理人弁護士

益田哲生

為近百合俊

種村泰一

被告

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

被告

川本譽志和

被告

大川敦司

右三名訴訟代理人弁護士

永嶋靖久

森博行

主文

一  被告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部は、原告日本一生コンクリート株式会社に対し、二二〇万円、原告吉川六郎に対し、五五万円及び右各金員に対する平成三年一月二二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五〇分し、その一を被告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「被告組合」という。)は、その所属の組合員又は第三者をして、原告日本一生コンクリート株式会社(以下「原告会社」という。)の製造する生コンクリートの同社泉大津工場(大阪府泉大津市〈以下、略〉)からの搬出、若しくは生コンクリートの材料の同工場内への搬入を、右車両の全(ママ)面に立ちふさがり、あるいは車両その他の妨害物を置くなどして、実力をもって妨害、阻止させてはならない。

2  被告らは、各自、原告会社に対し、一億一九〇一万六〇四二円、原告吉川六郎(以下「原告吉川」という。)に対し、五五〇万円及び右各金員に対する平成三年一月二二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告会社は、肩書地に本社を、大阪府泉大津市(以下、略)に泉大津工場(JIS認定工場)を置き、生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造・販売等を業とする株式会社であり、原告吉川は、原告会社の代表取締役である。

(二)(1) 被告組合は、関西地区におけるセメント、生コン産業及び運輸産業、建設一般産業等で働く労働者によって組織された労働組合である。

(2) 株式会社成進(以下「成進」という。)は、大阪府高石市(以下、略)に本社を置き、運送及び建材販売等を業とする会社であり、原告会社は、成進と運送契約を締結し、その製造した生コンの運送を委託している。成進は、コンクリートミキサー車を保有する商店主との間で業務委託契約を締結し、取引先から受注した運送業務を委託しているが、右商店主の一部は、被告組合に加入し、被告組合日本一生コン分会(以下「日本一分会」という。)を結成したと称しているところ、平成二年当時、被告川本譽志和(以下「被告川本」という。)は、右分会の分会長兼書記長であり、被告大川敦司(以下「被告大川」という。)は、右分会の副分会長であった。

2  原告会社の業務内容及び生コンの特性

(一) 原告会社は、生コンを製造して各建設現場に納入することを業務内容としている。泉大津工場では、原材料のうちセメントは、セメント圧送口からパイプを通って空気圧によりセメントサイロに圧送される。セメント、骨材(砂、砂利など)、水は、パ(ママ)ッチャープラントのミキサーで練り混ぜられ、生コンが製造される。製造された生コンは、バッチャープラントの下でミキサー車に投入積載され、ミキサー車は、生コンを攪拌しながら、正門から出て、納入先である建設現場に向かう。納品を終えたミキサー車は、再び正門を通って、同工場に戻ってくる。

(二) 原告会社に対する注文は、ゼネコンと呼ばれる各建築会社から真(ママ)壁組を通して伝えられる。原告会社は、注文を受けると、指示された配合表に従って、必要量の生コンを製造し、これをコンクリートミキサー車に積載し、指示された時間に指示された建設現場に納入する(現場渡し)。このため、建設現場に納入するまでの危険は、すべて原告会社が負担することになり、後述のような妨害行為により生コンの納入ができない場合には、代金の支払は一切受けられない。

(三) また、各建築会社は、工事の進捗状況に合わせながら必要量の生コンを発注してくるので、生コン会社にとっては、指示された時間に必要量の生コンを納入することが至上命令となる。原告会社は、後記妨害行為により、右指示どおりの納入ができなくなり、原告会社に対するユーザーの信用は著しく低下した。そのため、原告会社の受注量は、被告組合から妨害行為を受けるようになった平成二年四月以降激減した。

(四) そして、生コンは、一旦凝固すると使用できなくなるため、凝固しないようにミキサー車で攪拌しながら建設現場まで運搬するが、それでも、時間が経過するにつれてその品質は低下する。このため、妨害行為により出荷ができなくなると、一定時間後には生コンを廃棄処分にせざるを得ない。

3  被告らによる入・出荷妨害行為など

被告らは、次のとおり、平成二年四月一一日以降、多数の組合員(以下「組合員」とは「被告組合員」をいう。)らを動員し、原告会社泉大津工場の入・出荷を妨害するとともに、原告吉川らに対する傷害事件を引き起こした。

(一) 平成二年四月一一日(水)

(1) 午前七時二〇分ころ、被告組合の宣伝車一台及び大型バスが、多数の組合員らを乗せて、原告会社泉大津工場構内に侵入し、バッチャープラントの下に右車両を停車させ、生コン車の出入り、積込作業ができない状態にした。

(2) その後、組合員らは、右バッチャープラント下に停車した宣伝車に施錠をして、移動ができない状態にした上、大型バスを右工場の正門前に移動させ、約一五〇名の組合員らがピケを張って、生コンの出荷を不能にした。

(3) 午前七時五〇分ころ、右組合員のうち約一〇名の者が、工場事務所内に乱入し、「社長を出せ」「どこに隠れているのか」などと大声で喚き立てた。原告会社の西橋製造部長が、「社長はまだ出社していない」旨説明するとともに、業務妨害をやめ、右宣伝車等を移動させるよう求めたところ、組合員らは、同製造部長の胸ぐらをつかみ、「お前はここの責任者か」「お前は何者や」などと怒鳴り、右業務妨害をやめようとはしなかった。

(4) その後も、原告会社は、マイクの放送で構内からの退去を繰り返し求め、業務妨害をやめるようにとの立て看板を示すなどして、繰り返し業務妨害をやめるよう説得を重ねたが、右組合員らは一向に聞き入れず、右業務妨害行為を続けた。そして、原告吉川が、ショベル車を使って廃棄処分すべき戻り生コンの処理作業に取りかかったところ、多数の組合員らが再度構内に乱入し、右ショベル車にかけのぼり、同原告の胸ぐらをつかんで引きずり下ろした上、殴る蹴るの暴行を加え、同原告に対し、約一週間の加療を要する右膝打撲擦過創、両上腕打撲傷の傷害を負わせた。

(5) 午後〇時三〇分ころ、組合員らは、バッチャープラント下に施錠して放置していた右宣伝車を工場外に移動させたので、原告会社は、午後一時、生コン車を構内に入れ、生コンを積み込んで出荷しようとしたところ、右組合員らは、正門前にピケを張り、業務妨害をやめるようにとの原告会社の求めを聞き入れず、妨害行為を続けたため、右出荷は不能に終わり、積み込んだ生コンは、廃棄処分にせざるを得なかった。

(6) 右出荷妨害は、午後三時ころまで続き、その後、組合員らは、右宣伝車及び大型バスに分乗して引き上げた。

右出荷妨害により、原告会社が同日出荷を予定していた生コン一七一・〇五立米のうち、組合員らが出荷妨害を始める以前に出荷した一八・五立米を除く一五二・五五立米が出荷不能となった。

(二) 同月一二日(木)

午前六時三〇分ころから午後三時ころまで、組合員ら約五〇名が、泉大津工場の正門前にピケを張るなどして出荷を妨害したため、同日出荷を予定していた生コン二五二・五立米すべてが出荷不能となった。

(三) 同月一三日(金)

午前七時三〇分ころ、約六〇名の組合員らが、宣伝車及び大型バスに分乗して、泉大津工場に押しかけ、セメントの圧送口の前に右車両を駐車させるなどして、終日セメントの入荷を妨害した。また、一部生コンの出荷も妨害した。

(四) 同月一四日(土)

セメント圧送口の前に車両を駐車させるなどして、終日セメントの入荷を妨害した。

(五) 同月一六日(月)

午前六時三〇分ころ、約九〇名の組合員らが泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って、終日、生コンの出荷及びセメントの入荷を妨害したため、同日出荷が予定されていた生コン五二〇立米のうち四四三・五立米が出荷不能となった。その間、午後〇時一〇分ころ、原告会社は、生コン車(四トン車)に生コンを積み込み、出荷を図ったが、右出荷妨害により出荷できず、生コンを廃棄処分にせざるを得なかった。

(六) 同月一七日(火)

午前七時三〇分ころ、約一五〇名の組合員らが泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って、終日、生コンの出荷及びセメント、軽量骨材の入荷を妨害した。その間、原告会社は、生コン車(四トン車)に生コンを積み込み、出荷を図ったが、右出荷妨害により出荷を断念し、生コンを廃棄処分にせざるを得なかった。

(七) 同月一八日(水)

組合員らは、ピケを張るなどして、終日、セメントの入荷を妨害した。

(八) 同月一九日(木)

午前七時三〇分ころ、約一〇〇名の組合員らが泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って、終日、生コンの出荷及びセメントの入荷を妨害した。

(九) 同月二〇日(金)、二一日(土)

両日、組合員らは、セメント圧送口前に車両を駐車させるなどして、終日、セメントの入荷を妨害した。

(一〇) 同月二三日(月)

午前七時四〇分ころ、約二〇〇名の組合員らが、宣伝車二台及びバス二台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前やセメント圧送口前にピケを張るなどして、生コンの入(ママ)荷及びセメントの出(ママ)荷を妨害したため、同日出荷が予定されていた生コン二五九・五立米のうち一八八立米が出荷不能となり、また、セメントを全く入荷することができなかった。

(一一) 同月二四日(火)

組合員らは、終日、ピケを張るなどして、セメントの入荷を妨害した。

(一二) 同月二五日(水)

(1) 午前七時四五分ころ、約二〇〇名の組合員らが、バス四台及び宣伝車二台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って生コンの出荷を妨害した。

(2) 午前八時すぎころ、川崎組合員が事務所内に乱入し、居合わせた商店主の一人である音地(非組合員)の胸ぐらをつかみ、外に引きずり出そうとしたが、他の者が制止したため、音地を事務所外に引きずり出すことはできなかった。音地は、右暴行により負傷した。

(3) その間、六、七名の組合員が事務所内に乱入し、同じく商店主の一人である岡本弘幸(非組合員)を事務所外に引きずり出して、殴る蹴るの暴行を加えた。岡本は、右暴行により身体の諸所に負傷を負い、救急車で病院に運ばれた。

(4) 午前九時ころ、通報を受けた警察官が到着したところ、午前九時二〇分ころ、組合員らは全員退去した。

(一三) 同年五月一二日(土)

午前七時三〇分すぎころ、約一〇〇名の組合員らが、宣伝車四台、バス三台及び乗用車数台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前に宣伝車二台を横付けし、ピケを張るなどして、生コンの出荷、セメントの入荷を終日妨害した。このため、同日出荷が予定されていた生コン一三一立米すべてが出荷不能となった。

(一四) 同月一四日(月)

午前七時四〇分ころ、約一〇〇名の組合員らが、宣伝車三台及びバス二台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って生コンの出荷を終日妨害した。このため、同日出荷が予定されていた生コン二三四・五立米のうち二二二立米が出荷不能となった。

原告会社は、被告組合の右執拗な妨害行為により甚大な損害を被ったため、当庁に対し、同月一五日付けで右行為の差止めを求める仮処分を申請した。

(一五) 同月一七日(木)

(1) しかし、被告組合は、右仮処分申請を意に介さず、同月一七日も、午前七時四〇分ころ、約六、七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を終日妨害した。このため、同日出荷が予定されていた生コン一九五・五立米のうち一五二・五立米が出荷不能となった。

(2) その際、西橋工場長が、組合員らの指揮をしていた宮脇紀(以下「宮脇」という。)に対し、業務妨害をやめるよう抗議したところ、同人は、「自分の判断だけでは行動の変更はできない」と述べ、同工場長が「それではミキサー車一台、生コン一立米でも出荷の妨害をするのか」と問い質したところ、同人は「自分の立場として、上からの指示できている以上、絶対にやる」と答え、一向に業務妨害をやめようとはしなかった。

(3) また、多数の組合員らが、原告会社の取引先の一つであるアイサワ工業の現場事務所にも押しかけ、同事務所内に乱入し、「日本一生コンの生コンを使うな」「契約を解除せよ」などと要求した。

(一六) 同月一九日(土)

(1) 午前八時すぎころ、多数の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、生コンを積載して出発しようとして(ママ)ミキサー車の進路直前に宣伝車を横向きにして停め、また、多数の組合員らが右ミキサー車の直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不可能なり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。

(2) 中神課長が、右状況を撮影しようとしたところ、数名の組合員が、同課長の手からカメラを取り上げようとして、同課長と揉み合いになり、同課長は、ようやく右組合員らの手を逃れて脱出した。

(一七) 同月二六日(土)

午前七時四〇分ころ、約八〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、生コンを積載して出発しようとしたミキサー車の進路直前に宣伝車を横向きにして停め、また、多数の組合員らが右ミキサー車の直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。右出荷妨害は、午後二時ころまで続き、その間、生コンの出荷が全くできなかった。

(一八) 同月三〇日(水)

午前七時三五分ころ、六、七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、ピケを張るなどして生コンの出荷を終日妨害した。このため、同日、生コンの出荷が全くできなかった。

(一九) 同年六月二日(土)

午前七時四〇分ころ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。組合員らは、生コンを積載したミキサー車のうち、組合員らが生コンの出荷を妨害していないという体裁を取り繕うため、一台目だけは、妨害せず出荷させ、その状況を写真撮影した後、二、三台目は、進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。以後、妨害行為は終日続き、同日、その間生コンの出荷が全くできなかった。

(二〇) 同月五日(火)

午前七時三五分ころ、約七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、生コンを積載して出発しようとしたミキサー車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。以後、妨害行為は終日続き、妨害が始まる前に出荷した分を除く二九八立米が出荷不能となった。

(二一) 同月八日(金)

午前七時四〇分すぎころ、約七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。組合員らは、生コンを積載したミキサー車のうち、最初の一台についてはあえて妨害せず、同車が出発していく状況を写真に収めるなどした後、二台目以降については、進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。

(二二) 同年七月一二日(木)

午前七時四〇分すぎころ、約五〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、生コンを積載して出発しようとしたミキサー車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。

(二三) 同年八月二四日(月)

午前七時五〇分ころ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を終日妨害した。

(二四) 同年一〇月五日(月)

(1) 午前七時五〇分ころ、約五、六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を妨害し、また、組合員らは、建設現場にも押しかけて妨害行為をした。このため、同日出荷予定であった生コン一二八立米のうち七七・五立米が出荷不能となった。

(2) また、組合員らは、原告会社の取引先の建設現場に押しかけた際、「日本一生コンの生コンを使うな」などと申し入れる等の行動をとった。

(二五) 同月一二日(月)

(1) 午前九時一〇分ころ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場前に集結した上、竹内建設の光明台北小学校増築工事現場に押しかけ、妨害行為をしたため、荷下ろしを中止せざるを得ないことになり、既にミキサー車に積載して右現場に向かっていた生コン三六・五立米は廃棄処分にせざるを得ず、また、同日出荷が予定されていた一一〇・五立米のうち六二立米が出荷不能となった。

(2) また、原告会社は、右妨害行為前に既に約五〇立米の打設を完了していたが、当日の工事をその段階で中止し、日を改めて生コンの打設を継続するような工法は、既打設部分との間に断層を生じ、クラック(ひび割れ)の原因となるため、採り得ない。このため、原告会社は、右既打設部分を自ら退去せざるを得なかった。

(二六) 同月一九日(月)

午前九時すぎ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、生コンを積載して出発しようとしていたミキサー車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった。

(二七) 同年一一月二〇日(金)

(1) 当庁は、原告会社が申請していた前記仮処分事件について、同月六日、申請どおり妨害行為の禁止を命じる決定をした。

(2) しかし、被告組合は、右仮処分決定にもかかわらず、同月二〇日、多数の組合員を動員し、「過積載は認めない。」などと称して、泉大津工場からの生コンの出荷を妨害した。

4  その他の営業妨害行為

(一) 被告組合員らは、前述のとおり、平成二年五月一七日、アイサワ工業の現場事務所に、同年一〇月五日、原告会社の取引先の建設現場に、同月一二日、竹内建設の光明台北小学校増築工事の建設現場に押しかけて「日本一生コンの生コンを使うな」などと要求する等の業務妨害行為を行ったほか、同年五月一四日、村本建設株式会社(以下「村本建設」という。)の工事現場に押しかけて原告会社の生コンを使用しないよう要求し、同社がこれを拒否すると、出入口の両側に街宣車を駐車し、五、六〇名の組合員が、右街宣車の回りを取り囲んで、右工事現場へのミキサー車の進入を妨害した。

(二) また、被告組合は、原告会社の生コンを使用している建設会社等に対し、「会社への行動の組織化によって、貴殿に対してもご迷惑をおかけすることがあるかもしれないことを、予めお断り致します。」「眞壁組グループ(原告会社、国土一生コンクリート)との取引を見合わせて頂くことを要請します。尚現在契約中の場合は、残契約分を解除されることを要請します。」などと記載された要請書を持参又は郵送して交付した。

(三) 被告らは、同年一一月二〇日以降も同様な行動を繰り返した。このため、原告会社は、多くの取引先から取引を停止されるに至った。

5  原告吉川に対する違法行為

原告吉川は、前述のとおり、被告組合の組合員らに殴る蹴るの暴行を受け、約一週間の加療を要する傷害を負った。しかも、被告組合は、右事実を否認し、逆に「あわや“殺人”」との表題の下に、同原告が組合員めがけてショベルカーで突進したなどと嘘の事実を記載したビラを配布するなどして、同原告の名誉を著しく傷つけた。また、被告組合は、街宣車、ラウドスピーカーを利用して、同原告自宅周辺で、多数回にわたり、同原告を誹謗中傷する演説を行い、事実に反するビラを多数配布するなどして同原告の名誉を著しく毀損した。さらに、被告組合は、多い日で二〇〇回以上、少ない日で五〇回もの悪質ないたずら電話を同原告の自宅にかけるなどの嫌がらせ行為を行った。

同原告は、右違法行為により耐え難い苦痛を被っている。

6  被告らの責任

(一) 原告らに対する右各違法行為は、被告組合によりなされたものであり、原告らが蒙った損害について、被告組合が損害賠償責任を負うことは明白である。

(二) また、被告川本は、日本一分会の分会長兼書記長であり、被告大川は、同分会の副分会長であって、前記各違法行為を被告組合と共謀して行い、これを指導したものであるから、被告組合とともにその損害賠償責任を負う。

(三) よって、被告らは、原告らに対し、民法七〇九条、七一〇条、七一九条により損害賠償責任を負う。

7  原告会社の損害

(一) 売上高減少による損害

被告組合の執拗な業務妨害行為により原告会社の売上高は大幅に減少した。

平成二年四月度から同年一〇月度(各月度は、前月二一日から当月二〇日までの一か月間を指す。)までの七か月間の出荷実績は、一万九六七八立米であり、前年同期間の出荷実績四万七二五五立米と比較して、二万七五七七立米減少している。平成二年四月度から同年一〇月度の売上高は、一億八六八〇万一五一八円であり、一立米当たりの単価は、平均九四九三円(一億八六八〇万一五一八円÷一万九六七八円、(ママ)円以下四捨五入)であるから、右減少分の売上高は、二億六一七八万八四六一円(九四九三円×二万七五七七)である。

そして、原告会社の平成元年九月度から平成二年三月度の七か月間の粗利率は、平均一五・二パーセントであるから、右期間の売上高減少による損害は、三九七九万一八四六円である。

(二) 光明台北小学校増築工事生コン撤去による損害

光明台北小学校増築工事は、前述のとおり、被告組合の妨害行為により、工事途中で中断を余儀なくされた。このため、既に打設していた生コンを撤去せざるを得なくなり、この撤去に伴う費用として一九二二万四一九六円を要した。

(三) 信用毀損による損害

被告組合による違法行為により、原告会社の信用は、著しく低下し、毀損された。これにより、原告会社が被った損害は、少なくとも五〇〇〇万円を下らない。

(四) 弁護士費用

原告会社は、代理人弁護士に対し、本件訴訟の弁護士費用として一〇〇〇万円の支払を約した。

(五) よって、原告会社の損害額合計は、一億一九〇一万六〇四二円である。

8  原告吉川の損害

(一) 被告らの原告吉川に対する前記違法行為により、精神的苦痛を被り、これを慰謝する金額は、五〇〇万円をくだらない。

(二) 同原告は、代理人弁護士に対し、本件訴訟の報酬として五〇万円の支払を約した。

(三) よって、同原告の損害額合計は、五五〇万円である。

9  よって、原告会社は、営業権及び泉大津工場の施設管理権に基づき、請求の趣旨一項記載の差止めを、また、原告らは、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として請求の趣旨二項記載の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否等

1  請求原因1は認める。

2  同2は不知ないし争う。

3  同3のうち、原告会社が仮処分申請をしたこと及び仮処分決定があったことは認め、その余は否認ないし争う。被告組合は、後述のように、眞壁組グループの眞壁明社長が約束を反故にし、職場から労働組合を排除するという組合潰しを行ったことから、眞壁組グループである原告会社に対し、抗議を行ったものであり、原告らが主張するような実力による業務妨害行為はしていない。

(一) 平成二年四月一一日(水)

(1) 大型バスは、泉大津工場の正門から五〇メートルほど離れた路上に駐車しており、バッチャープラント下に停車させて、ミキサー車の出入り、積込作業をできない状態にした事実はない。

また、被告組合が、泉大津工場に到着したときには、正門が開いており、生コンの出荷も行われていなかったので、組合役員が乗った宣伝車は、そのまま構内に入ってバッチャープラント前に停車したが、何時でも動かせるようにキーをつけたままにして、原告吉川の出社を待った。

(2) 午前八時ころ、被告組合の代表は、原告吉川に申し入れるべく、事務所に出向いたが、同原告は、まだ出社していなかった。

また、組合員らは、泉大津工場の道路を挟んだ向かい側で待機していた。

(3) その後、同原告が出社してきたので、組合員らが団交を求めたところ、同原告は、眞壁明社長にすべて任せてあるとして、これを拒否し、構内にいた組合員の退去を求めたため、被告組合は、右要求に従い組合員らを退去させた。

(4) その直後、同原告は、自らショベルカーに乗車し、既に処理済みの残コンの山を突き崩し、正門前や宣伝車の後方にばら撒き始めた。そこで、約一〇名の組合員が、宣伝車の退路を確保するため、同原告の右行為を阻止しようとして、右ショベルカー付近まで駆け寄ったところ、同原告は、右組合員らの頭上から残コンをばら撒こうとしたため、右組合員らは、やむなくショベルカーによじ登り、同原告を地上に抱き降ろした。その際、右組合員らが、同原告に対し、殴る蹴るの暴行を加えた事実はない。

(5) 午後〇時三〇分ころ、原告会社が右残コンを片付けたので、被告組合は、宣伝車を構外に出したところ、原告会社は正門を閉めた。その後、原告会社は、同日生コンの出荷を行っていない。

(二) 同月一二日(木)

組合員らが、泉大津工場に着いたのは、午前七時三〇分ころである。原告会社は、既に自ら正門を閉めてロックアウトしており、終日出荷はしなかった。

(三) 同月一三日(金)

被告組合代表が、午前七時三〇分ころ、原告会社に申入れに行ったところ、原告会社は、自ら正門を閉めてロックアウトし、出荷業務をしていなかった。また、同日、原告会社にセメントの入荷はなかった。

(四) 同月一四日(土)

原告会社は、自ら正門を閉めてロックアウトし、出荷業務を行わず、セメントの入荷もなかった。

(五) 同月一六日(月)

被告組合が、午前七時三〇分ころ、原告会社に申入れに行ったところ、原告会社は、正門前に右翼の宣伝車三台を駐車させ、自ら門前を塞いでいた。右宣伝車は、終日門前を塞いでおり、出荷業務はできない状態であった。

また、原告会社では、運転手の一一名がストライキ中で、使用可能な大型車が七台しかなく、原告主張の四四三・五立米の生コンを運搬することは、そもそも不可能な状態であった。

(六) 同月一七日(火)

被告組合が、午前七時三〇分ころ、原告会社に申入れに行ったところ、右翼の宣伝車が正門を塞ぎ、原告会社自らロックアウト状態にしていた。原告会社は、自ら生コンの出荷を中止しておきながら、あたかも被告組合が出荷妨害しているかのような状況を作り出すため、生コンの出荷を装ったものである。

また、軽量骨材の入荷のダンプ車などは、自由に出入りしていた。

(七) 同月一八日(水)

原告会社は、自らロックアウトを行っていた。

(八) 同月一九日(木)

原告会社は、自らロックアウトを行っていた。

(九) 同月二〇日(金)、二一日(土)

被告組合がセメント入荷を妨害した事実はなく、セメントは何の妨害もなく入荷していた。

(一〇) 同月二三日(月)

原告会社は、右翼の宣伝車で正門を塞ぎ、自らロックアウト状態にしていた。

(一一) 同月二五日(水)

非組合員の挑発により暴力事件が引き起こされ、そのため工場内外が混乱し、出荷ができなかったことは事実であるが、出荷不能の原因は、被告組合の妨害行為にあるのではない。

(一二) 同年五月一二日(土)

午前七時三〇分ころ、被告組合は、原告会社へ申入れに行ったが、セメント入荷や生コンの出荷を妨害していない。原告会社は、生コンの出荷を行っていた。

(一三) 同月一四日(月)

原告会社は、早朝出荷した後、組合員らが到着すると、ミキサー車を帰社させず、他のプラントへ行かせており(バッチャー受け)、そもそも泉大津工場からの出荷行為はなかった。

(一四) 同月二六日(土)

組合員らは、出荷しようとする運転手に対し、出荷をやめるようにとの説得活動を行い、運転者がこれに応じたものである。

(一五) 同年一〇月五日(金)

組合員らは、建設現場に赴いたが、原告会社の取引先に対し、争議解決への理解と協力を求めるためであり、生コンの打設を妨害する意図はなく、また、妨害行為の事実もない。

(一六) 同月一二日(月)

組合員らが、建設現場に押しかけたため、工事が中止となったわけではない。被告組合は、右工事の施主である和泉市役所の担当職員に対し、原告会社が、禁止されている混合生コンを行っていることを告げたところ、和泉市建設課が、公共工事として相応しくないとの判断で、生コン打設中止を決定したものである。

(一七) 同月一九日(金)

被告組合は、運転手に対し、説得活動を行っていたにすぎない。

(一八) 同年一一月二〇日(火)

被告組合は、原告会社の過積載の監視を行っていたにすぎない。

(一九) その他の原告ら主張の日に、被告組合が、実力で業務妨害行為をした事実はない。

4  同4は否認ないし争う。

5  同5は否認ないし争う。

組合員らが、原告吉川をショベルカーから抱き下ろした事情は、前述のとおりであり、その際、同原告に対し、殴る蹴るの暴行を加えた事実はない。

また、被告組合は、宣伝活動を行ったが、同原告を個人的に誹謗中傷するような言動に出たこと、事実に反するビラを配布したこと、同原告の名誉を毀損する行為を行ったことはない。

6  同6のうち、被告川本が日本一分会の分会長兼書記長であったこと、被告大川が、同分会の副分会長であったことは認め、その余は否認ないし争う。

(一) 被告組合は、後述のように、原告会社が、日本一分会員らに対し団交応諾義務を負う使用者としての立場にあるにもかかわらず、組合の存在を極度に嫌悪し、一貫して団交拒否の態度を採り続けてきたため、団交の応諾を求めて適法な争議行為を行ったものであり、不法行為責任を負うものではない。

(二) 被告組合に不法行為が成立しない以上、被告川本及び同大川が不法行為責任を負うことはない。

また、仮に被告組合が不法行為責任を負うとしても、被告組合においては、争議行為の企画及び実施の決定権限は、同被告にあって分会にはなく、また、争議現場においての指導責任者は、同被告執行委員である上、分会員は、当該争議の全(ママ)面に出さないという同被告の方針に基づき、被告川本らは、直接行動に参加することはほとんどなかった(被告大川は、争議現場にはいなかった。)のであるから、同被告らが不法行為責任を負うことはない。

7  同7は否認ないし争う。

8  同8は否認ないし争う。

9  同9は争う。

三  抗弁

仮に、原告ら主張の被告らの行為が認められたとしても、原告会社は、被告組合日本一分会員らとの関係で、労働組合法(以下「労組法」という。)七条の「使用者」に当たり、被告らの行為は、すべて労働組合の使用者に対する正当な争議行為であって、違法ではない。

1  原告会社の使用者性

(一) 使用者性の判断基準

(1) 生コンは、その製造工場内のバッチャープラントと呼ばれる機械内でセメントと砂利、砂、水、混和剤との混練を開始してから約一時間半以内(できれば三〇分以内)に需要家の現場に届けないと生コン特有の固結性のため商品価値がなくなり、しかも品質保持の責任が製造側に負わされており、他方、セメントは大量生産が可能であるものの、長時間の保存ができないため、生コン会社としては、生コンを秩序正しく迅速に輸送して、セメントの流通が滞ったり、輸送遅滞を生じさせて商品価値を失うことのないようにすることが最も重要な課題であるから、昭和三五年ころまでは、生コン製造会社がミキサー車と運転手を直接保有することが一般的であった。ところが、その後交通事故対策、労務対策等の必要から輸送部門を別会社として分離独立させたり、下請会社と契約することが多くなったものの、右のように需要家の現場に届ける迄生コン製造会社が品質保持責任を負う性質の営業であり、従って、輸送は製造工程の一部ともいえるため、輸送部門を別法人としながらも、輸送の迅速、安全、確実を期するため、一般的に輸送会社に対し強い指導力・影響力を確保しようと努め、また、輸送効率を上げて利益率の向上を図るため、一工場一輸送会社の体制をとって管理を容易にし、ミキサー車の運転手の労働時間、労働内容にまで、直接決定権を持つのが通常である。

(2) 以上の生コン事業の特殊性にかんがみ、生コン製造会社が運送会社従業員との関係で、労組法上の「使用者」に当たるか否かは、〈1〉荷主限定、車両支配などにより、生コン製造会社が輸送会社の営業を支配しているか否か、〈2〉出荷指図関係など業務遂行上の結合関係があるか否か、〈3〉運送会社が生コン製造会社の物的設備をどの程度利用しているか、〈4〉運賃(賃金)の決定がいずれの会社の計算に基づくものかという四つのメルクマールに従い判断すべきである。

(二) 原告会社及び成進の設立経緯

原告会社及び成進は、昭和六〇年一〇月一日、同時に稼働を開始した。

原告会社は、眞壁組の会社案内で「昭和六〇年一〇月、私ども眞壁組は、日本一生コンクリート株式会社という力強いパートナーを得ることができました。」などと紹介されているように、眞壁組の全面的援助を受けて設立された会社であることは明らかである。

成進は、同社代表者辻畑秋成が、昭和六〇年三月ころ、原告吉川から原告会社の生コン輸送をやって欲しい旨の誘いを受け、その指示どおり必要な数の運転手を集めて設立するに至ったものである。辻畑秋成は、それまでに生コン輸送の経験はなく、原告会社の製造する生コンを輸送することだけを目的として、人集めをしたものであり、成進は、設立段階の当初からその命運を原告会社の手中に握られていたのである。

(三) 原告会社の成進に対する営業支配

成進は、当初、大型ミキサー車八台、小型ミキサー車四台の計一二台でスタートし、原告会社の製造する生コンを専属的に輸送していた。昭和六一年八月、原告会社が、JISを取得するまでの約一〇か月間はあまり仕事がなかったため、原告会社の了解を得て、他の生コン会社の生コン輸送に従事することもあった。

その後、原告会社の生コン出荷量が増加し、また、昭和六二年後半、原告会社の兄弟会社である国土一生コンクリート株式会社(以下「国土一生コン」という。)及び五洋一生コンクリート株式会社(以下「五洋一生コン」という。)が、相次いで稼働を開始し、その生コン輸送の一部も担当するようになるに伴い、成進は、ミキサー車を増車し、大型ミキサー車二三台、小型ミキサー車一九台の計四二台を保有するに至った。

しかし、右車両の振分けについては、成進の自由裁量に任されているわけではなく、四二台の車両のうち約二〇台(大型一五台、小型五、六台)には「日本一生コン」と、約一〇台(いずれも小型)には「国土一生コン」と、その余の車両には「成進」とそれぞれドラムに大書きした上、ドアは右各社の名称・所在地・電話番号を表示し、その所属を明確にして、右各社の輸送を専属的に担当させている。原告会社の製造する生コンは、原則としてすべて成進が輸送しており、出荷量が多い場合に限り、他社の車両をチャーターしてその不足分を補うことがあるにすぎない。

このように、成進は、原告会社との関係において、荷主限定の会社であることは明らかである。

また、原告会社、国土一生コン及び五洋一生コン(以下、右三社を総称して「原告会社ら」という。)の親会社である眞壁組と成進との間の覚書には、「原契約第七条の契約期間内は原則として三六五日一日二四時間、甲(眞壁組)の要求に対し、日時の期限なく乙(成進)は配送稼働に応じることとします。」と記載されており、荷主限定の関係を書面上も明確にしている。

(四) 業務遂行上の結合関係

(1) 成進は、生コンの輸送のみを業務とする会社であり、その業務の流れは次のとおりである。

ア 一日の作業がほぼ終了した時点で、原告会社の西橋工場長が、成進の配車係土井に対し、現場名・立米数・到着時間等を記載した翌日の出荷予定表を交付する。

イ 土井は、右出荷予定表に従い、原告会社名義の四、五枚綴りの伝票に所要事項を記入し、翌朝、これを出発順に運転手に交付する。土井が欠勤した場合は、西橋その他原告会社の従業員が右伝票を記入することもあった。

ウ 運転手は、右伝票を持参して出発し、現場に到着後、待機している原告会社の従業員の誘導により生コンを打設する。

エ 打設完了後、運転手は、右伝票にサインをもらい、帰社後、残りの伝票を原告会社に返却する。原告会社は、これに基づき出荷実績表を作成する。

(2) 以上のように、原告会社と成進とは、業務遂行上緊密な連携プレーを行っており、しかも、その密接な関係は、すべて原告会社の計算によって支配されている。

加えて、原告会社は、成進の運転手らに対し、直接生コン輸送の手順等について詳細な作業指示を行っている。

(五) 施設利用関係

成進は、四〇台を超える車両を使って生コン輸送を行っており、業務運営上必要な配車スペース、駐車スペース、運転手の休憩室、業務連絡用の無線設備等すべての物的設備を原告会社から無償で借用している。このように、施設利用の面においても、成進の原告会社に対する従属性は否定しがたい。

(六) 運賃(賃金)の決定

(1) 成進の賃金支払形態は、歩合給であり、運転手は、運賃という名目で、各自が一か月間に輸送した生コンの立米数に応じた賃金を受領している。ただし、車両のリース料の天引きが終わるまでは最低保障があり(小型ミキサー車の場合はリース終了後も最低保障がある。)、最低限の賃金額は確保されるシステムとなっている。

(2) 右賃金計算の基礎となる立米当たりの運賃単価等の決定権は、ゼネコンからの対外的受注を一手に引き受け、生コンの販売価格を決定している眞壁組にあり、原告会社ですら右決定にどの程度関与しているのか疑わしく、まして、成進が、独自に運賃単価等を決定することなどあり得ない。

成進は、原告会社(現実には眞壁組)から支払われる運賃総額から一定率又は一定額の管理料を取得するだけの寄生的存在でしかない。

(七) したがって、原告会社と被告組合日本一分会員らとの関係につき、前記(一)(2)の〈1〉ないし〈4〉のメルクマールに従い判断すれば、原告会社が労組法七条の「使用者」に当たることは明らかである。

2  眞壁組グループの一体性

(一) 眞壁組グループの成立の経緯

(1) 眞壁組は、もとは骨材の販売業務のみを行っていたが、昭和五八年ころから生コンの販売を始め、現在は建築業者から生コンの注文を受け、これをプラントに発注して納入することが主な業務となっている。

眞壁組は、当初、生コンプラントを所有していなかったため、他の生コンメーカーで製造させた生コンを買い入れ、転売する方式を採っていたが、右方式では、利益に限界があるため、自社で生コンの製造を開始することを決め、昭和六〇年から六一年ころにかけて、大阪府和泉大津市に生コンプラントを設置した。

(2) 眞壁組は、生コン製造・販売を開始するに当たって、労働法上等の様々な責任を負担することを恐れて、実際は、眞壁組の生コン製造販売のための部門にすぎないのに、これに形式上の法人格を与えて原告会社を設立し、眞壁組代表者眞壁明の友人であり、眞壁組の監査役であった原告吉川を原告会社の代表者に据えた。そして、眞壁組所有の右生コンプラントを原告会社に貸し付けるという形態で、生コンの製造・販売を開始した。

(3) 眞壁組は、原告会社に続いて、国土一生コン、五洋一生コン(大阪砂利工業株式会社から名称変更)を設立し、眞壁明の娘婿である眞壁重雄を両会社の代表者に据え、同様の形態で、生コンの製造・販売を行っている。

(二) 眞壁組グループ各社の人的、資本的関係

(1) 株主構成

眞壁組の株主構成(七万株)は、眞壁明二万〇四〇〇株、眞壁和子三万三六〇〇株、眞壁カル一万二〇〇〇株、林俊秀一〇〇〇株、四宮弘章一〇〇〇株、奥野康夫一〇〇〇株、奥野重子一〇〇〇株である。

原告会社の株主構成(二〇〇株)は、原告吉川七〇株、吉川禎子九株、中西彰四五株、中西令三七株、松下幸司三八株、山神庸宏一株である。

国土一生コンの株主構成(二〇〇株)は、眞壁重雄四〇株、眞壁左知子四〇株、眞壁宏寧二六株、中西彰四〇株、中西令三四株、塩崎將尚一〇株、上瀧葵一〇株である。

(2) 役員構成

被告組合日本一分会結成(平成元年六月)当時、眞壁組役員は、代表取締役眞壁明、取締役眞壁明、同眞壁和子、同眞壁重雄(同月一〇日辞任)、同林俊秀、同眞壁カル、監査役中西規子(同日辞任)、同四宮弘章(同日就任)であった。なお、原告吉川は、昭和五六年五月三一日から平成元年五月三一日まで、監査役を務めていた。

右当時、原告会社役員は、代表取締役原告吉川、取締役原告吉川、同吉川禎子、同眞壁和子(同年六月一〇日辞任)、同眞壁重雄(同日辞任)、同眞壁左知子(同日辞任)、同四宮弘章(同日辞任)、同松下幸司(同日就任)、同山口富乃(同日就任)、監査役山神庸宏(同日就任)であった。

右当時、国土一生コン役員は、代表取締役眞壁重雄、取締役眞壁重雄、同林俊秀(同日辞任)、同塩崎將尚(同日辞任)、上瀧葵(同日辞任)、同松下幸司(同日辞任)、同眞壁左知子(同日就任)、監査役四宮弘章(同日辞任)、同山神庸宏(同日就任)であった。

右当時、五洋一生コン役員は、代表取締役眞壁重雄、取締役眞壁重雄、同眞壁左知子、同眞壁カル(昭和六三年五月三一日辞任)、同島之上雅行(平成元年六月一〇日辞任)、監査役眞壁和子(昭和六三年五月三一日辞任)、同眞壁カル(平成元年六月一〇日辞任)、同山神庸宏(同日就任)であった。

(3) 右株主、役員の関係

眞壁和子は眞壁明の妻、眞壁カルは眞壁明の姉、眞壁左知子は眞壁明の娘、眞壁重雄は眞壁左知子の夫、中西規子は眞壁明の娘、中西彰は中西規子の夫、中西令は右両名の子、奥野康夫、奥野重子、山口富乃(その夫山口明は五洋一生コン工場長)は眞壁和子の兄弟、吉川禎子は原告吉川の妻である。

林俊秀は眞壁組北港支店の責任者、塩崎將尚は原告会社と同一敷地内に存する眞壁組泉大津支店の責任者、上瀧葵は五洋一生コンと同一敷地内に存する眞壁組大阪出張所の所長、四宮弘章は眞壁組経理部長、松下幸司は眞壁組社員で船舶係、島之上雅行は眞壁組営業部長である。

(4) 眞壁組グループ各社の従業員の関係

国土一生コンの工場長を務める植田洋は、眞壁組営業本部長を務めた植田明の息子であり、昭和五九年一一月から昭和六三年七月まで、眞壁組営業課長であった。同人は、眞壁組での身分保障及び給与の金額的保証の約束を得て、国土一生コンに移籍し、移籍後も眞壁組の社会保険を使用している。同人以前の国土一生コンの工場長は、元国土一生コン取締役、現原告会社取締役兼株主の松下幸司である。同人は、原告吉川の紹介で国土一生コンに入社し、現在、眞壁組の従業員である。

眞壁組営業部長の島之上雅行は、眞壁組入社後、五洋一生コン設立と同時に五洋一生コンに入社し、工場長となり、現在、五洋一生コン在籍のまま、眞壁組営業部長としての業務に従事している。

国土一生コンJIS規格技師製造課長山本哲夫は、現在、五洋一で応援で仕事をしている。元国土一生コン試験課員池田は、五洋一生コンに応援に行っていた。両名には、応援の間も国土一生コンから給料が出、社会保険も国土一生コンのままであった。

国土一生コンの吉田文平、女性事務員平、中村治は、いずれも元眞壁組の社員であった。

(三) 眞壁組グループ各社の設備利用関係

眞壁組は、大阪府下の泉大津市、岸和田市及び大阪市西成区の三箇所に生コンプラントを所有している。しかし、眞壁組は、自社で生コンを製造せず、右三プラントをそれぞれ原告会社らに貸与し、生コンの製造を行わせている。

原告会社らは、眞壁組所有の生コンプラントを借りて初めて営業が成り立つのであるが、生コンプラントを所有していない生コンメーカーは希有であり、また、生コンプラントを他社に貸し付けることも希有である。

(四) 眞壁組グループ各社の取引関係

(1) 眞壁組は、取引先に配布しているパンフレットの中で、原告会社らを子会社と呼び、四社を併せて眞壁組グループと称している。他方、原告会社らは、眞壁組を販売総代理店と呼んでいる。

眞壁組は、生コンの注文を受けると、大竜セメントから購入したセメントと骨材等を原告会社らに販売する。原告会社らは、右原材料から生コンを製造し、製造した生コンを眞壁組を介して注文主である建築会社等に販売する。

ただし、右原材料は、生コンプラントと同一敷地内のサイロやヤードに備蓄されており、眞壁組は、原告会社らに対し、現実の使用量に応じて代金請求をする。また、各プラントの電気、水道の使用契約者は、眞壁組であり、原告会社らは、眞壁組に対し、生コン製造に要した電気・水道代を支払っている。さらに、眞壁組と原告会社らとの間では、眞壁組が建築会社等との間で取り決めた単価に応じて、その単価から一定の金額を手数料として控除した金額を眞壁組から原告会社らに支払うという形式が取られている。

(2) 眞壁組は、生コン部門の営業担当者が、建築会社等から受けた注文を原告会社らに割り振り、生コンの製造、運搬をさせている。

眞壁組は、原告会社らに対し、得意先名、施工先名、工事現場名、品名(生コンの配合割合)を記載した単価取決連絡表と納入すべき工事現場付近の見取図をファックス送信し、さらに、納入量、納入時間を電話で連絡する。原告会社らは、右連絡に基づき、生コンの製造、運搬を行う。

生コンは、時間と共に固化、劣化するため、時分の単位まで納入時間が指定され、加えて製造から納入の時間も限定されている。そのため、眞壁組は、建築会社等から受けた注文を、プラントと現場の距離や、プラント全体の稼働状況を勘案しながら原告会社らに割り振っている。

(3) 原告会社及び国土一生コンは、生コンの製造・販売以外の業務は行っておらず、売上のすべては生コンの製造・販売によるものであるところ、生コンの注文はすべて眞壁組からのものである。また、原告会社らは、セメント、骨材はすべて眞壁組から購入しており、原告会社の生コン製造原価中、眞壁組から仕入れている原材料費の割合は一〇〇パーセント近いものである。そして、骨材代金等は、眞壁組グループ各社相互の利益調整のため、市場価格とは無関係に決められている。

(4) 以上のような取引関係について、その権利義務関係を明文化した契約書は作成されていない。

(五) 眞壁組グループ各社と運送会社との一体性

(1) 眞壁組のダンプ、原告会社らの各生コンプラント、各生コンプラントから生コンを運ぶミキサー車は、すべて同一色(緑)で塗装されており、眞壁組グループ企業の一体性を誇示している。

(2) 成進は、原告会社及び国土一生コンで製造された生コンを運搬しているが、両社から成進に運送代金が支払われたことはなく、運送代金は、すべて眞壁組から直接成進に支払われている。右運送代金は、単価を運送量に乗じた計算によって支払われるのではなく、最低保障額が決められており、運転手に対しても、単なる出来高払いではなく、最低賃金の保障がされている。

(3) 以上の眞壁組グループ各社と成進との間の取引関係についても、明文化された契約書はない。

(六) 眞壁組の使用者性

(1) 日本一分会員らは、眞壁組が販売する生コンを、眞壁組が原告会社らの各プラントに対してなす指示に基づいて各プラントが作成した出荷計画表に従って運搬する。

また、日本一分会員らの賃金は、眞壁組の建築会社等に対する生コンの販売価格によって決まる。すなわち、右賃金のうち、最低保障部分は、成進と原告会社、国土一生コン、眞壁組の合意によって決まり、歩合部分は、計算上、眞壁組の建設会社等に対する生コンの販売価格から製造原価と手数料を控除した金額が原告会社らに支払われ、そこから原告会社らにおいてそれぞれの経費と内部に留保されるべき利益が控除された金額が成進に支払われ、そこから成進が一定の手数料を控除して日本一分会員らに支払う形となっている。しかし、現実には、右計算上の金員の流れとは関係なく、成進が日本一分会員らに支払うべき賃金に成進が取得する手数料を加えた金額が、眞壁組から成進に直接支払われている。

(2) 形式上独立の法人格を有する団体であっても、その法人格が全くの形骸にすぎない場合、または、それが法律の適用を回避するために濫用される場合においては、法人格付与の法目的に反するものとして、その法人格を否認し、特定の法律関係につき、具体的妥当な救済を図ることが許されるものと解される(法人格否認の法理)。右法理は、一人商取引の分野に限らず、実質的支配、従属の関係にある法人間の労働契約関係についても適用しうるものと解すべきである。

そして、前記眞壁組グループ各社間の人的構成、物的施設・資産の共有性、経理の混同、取引関係の不可分性等に照らせば、両法人が組織的経済的に単一体を構成し、支配法人の従属法人に対する管理支配が現実的統一的で、社会的にも企業活動に同一性が認められるといわざるを得ず、原告会社は、眞壁組の一製造部門にすぎず、また、成進は、眞壁組の運送部門にすぎず、その法人格は、全くの形骸にすぎないのであり、否認するのが相当である。

また、仮に法人格の形骸化が認められないとしても、眞壁組は、大阪府との関係では、原告会社とは同一の法人格であることを主張しながら、労働組合との関係では別人格を主張するというような法人格の濫用を行っているのであるから、原告会社の法人格は否認されるべきである。

(七) 以上を総合すれば、原告会社は、眞壁組の生コン製造部門にすぎず、眞壁組は、日本一分会員らの使用者であるところ、眞壁組は、原告会社以外にも、生コン製造部門を抱えており、日本一分会員らの労働関係上の諸利益に影響力及び支配力を及ぼしうるのは形式上独立した法人格を有する原告会社であることからすれば、原告会社は、日本一分会員らとの関係で、労組法上の「使用者」に当たるというべきである。

3  本件争議行為の適法性

(一) 日本一分会は、平成元年六月一二日、眞壁組、原告会社及び成進に対し、分会結成通知を行うとともに団交申入書を提出して、公然化した。しかし、右三社は、いずれも日本一分会員らとの間には雇用関係がないとの理由で、右団交を拒否し、同月一七日、成進の辻畑秋成及び右翼団体国志会の吉田敬次郎を被告組合事務所に送り、被告組合に対し、日本一分会の解散を強要した。また、雇用関係不存在の外観を作出するため、それまで日本一分会員らに対して行っていたタイムカードによる出退勤管理を中止し、原告会社構内へのミキサー車の夜間駐車を禁止する等の挙に出た。

(二) そこで、被告組合は、同月二一日、右三社に対し、再び団交を申し入れたが、右三社が、これを拒否したため、同月二六日、大阪府地方労働委員会に対し、団交応諾のあっせんを求めるとともに、同月三〇日、同委員会に対し、救済命令の申立てをした(平成元年不第三五号事件)。右あっせんは、同月二九日から同年七月一日にかけて行われたが、原告会社らはいずれもあっせんを拒否したため、不調に終わった。

(三) また、被告組合執行委員長武建一(以下「武委員長」という。)と眞壁組代表取締役真壁明は、同年一〇月一六日から数回にわたって、問題解決のためのトップ交渉を行い、平成二年二月二八日の第六回会合において、次のとおり合意した。

(1) ミキサー車の立米当たりの運賃額を、大型二〇〇〇円、小型二五〇〇円とする。

(2) 最低保障額(省略)

(3) シルバーのミキサー車(無名車両)は、よほどのことがない限り増車しない。

(4) 眞壁組は、被告組合に対し、実損回復のための解決金として二〇〇〇万円を支払う。

(5) 雇用主体は、暫定的に新和グループ(仲介に立った生コン業者)とし、眞壁組は連帯雇用責任を負う。

しかし、真壁明は、右(1)及び(3)の合意事項に違反して、運賃額を引き下げ、シルバーのミキサー車を増車したばかりでなく、管理職を通じて日本一分会員らに対し、「組合員が新和グループに行けば、眞壁組とは関係がなくなるので、追い出すぞ」と告げて、雇用不安をあおるようになった。

そこで、武委員長は、眞壁明に対し、再度の話合いを求めたが、聞き入れられなかったため、被告組合は、右要求を貫徹するため、やむを得ず本件争議行為に突入したものである。

(四) よって、原告会社に対する争議行為は、すべて労働組合の正当な争議行為の範ちゅうに含まれるものであり、加えて、原告吉川に対する違法行為と主張されている行為も、労働組合の原告会社に対する宣伝行為の一内容である。また、名誉を毀損したと主張される内容も、すべて事実であるか、被告組合員らにおいて、真実と信じることにつき相当な理由が存していた。

四  抗弁に対する反論等

1  被告らの行動は、原告会社と被告組合日本一分会員らとの関係を問題とするまでもなく違法であり、被告らは損害賠償義務を免れない。

被告らは、被告組合に加入している商店主の車両だけでなく、すべての車両について実力でその出荷を妨害し、阻止し、さらにセメント等の入荷まで妨害、阻止する等の違法な行動を繰り返したものである。かかる違法な行動は、いかに組合活動、争議行為の名を借りようとも許されるいわれはなく、被告らは、右違法行為によって原告らが蒙った損害を賠償すべき責任がある。

2  原告会社は、被告組合日本一分会員らとの関係において、いかなる意味においても「使用者」の立場に立つものではなく、また、そもそも日本一分会員らは、商店主(事業主)であって、労組法上の「労働者」には該当しない。

(一) 原告会社の概要

(1) 設立の経緯

原告吉川は、原告会社成立前、日本英油株式会社(以下「日本英油」という。)及び吉川物産貿易株式会社(以下「吉川物産」という。)を経営し、石油関係、貿易関係等の業務を手がけていたが、オイルショック以降石油関係業務が低迷していたため、将来性の望める他分野への転出を模索していた。おりしも、泉州地区では、関西新空港関連の工事が緒につき、こうした建設工事に使用される生コンの需要増が相当に見込まれた。そこで、原告吉川は、市場調査などを慎重に繰り返した結果、生コン業界の将来に一定の展望を得たので、昭和六〇年九月九日、原告会社を設立し、同年一〇月一日、稼働を開始した。

右過程で、原告吉川は、旧友の眞壁明が、眞壁組の経営者としてかねてより砂利、砂など建設関係の資材を取り扱い、生コン業界の現状や将来の見通しなどに明るかったことから、同人と意見交換をしたこともあった。しかし、原告会社は、原告吉川が自ら発想を練り、準備を整えた上で設立したものであり、社名の決定、プラントの企画・立案、資金調達などもすべて原告吉川が行ったものである。

(2) 資本金等

原告会社の資本金は、一〇〇〇万円であり、株主は、原告吉川、吉川禎子及び原告吉川の友人三名の計五名であり、原告吉川夫婦で原告会社の株式の九割以上を保有している。眞壁組又は眞壁明の関係者が、原告会社の株式を保有している事実はない。

なお、原告吉川は、原告会社の設立に当たって、七名の発起人が必要であった(商法一六五条)ため、眞壁明に要請し、眞壁和子、眞壁重雄、眞壁左知子の名義を借用し、一定の株式を引き受けたとの体裁を整えたが、右三名は、現実に出資したものではなく、設立後、株主を真実の出資者である前記五名に改めている。

(3) 役員

原告会社の取締役は、平成元年六月七日当時、原告吉川、吉川禎子、眞壁和子、眞壁重雄、眞壁左知子、四宮弘章の六名であり、監査役は、山神庸宏であった。眞壁和子ら三名が取締役に名を連ねているのは、前記のとおり発起人として名前を借用した関係であり、右三名が、実際に原告会社の経営に関与している事実はない。

(4) 従業員

原告会社の従業員の中に眞壁組の関係者はいない。

(二) 成進の概要

(1) 設立の経緯

原告吉川は、原告会社の設立に当たり、原告会社が製造する生コンの運送については、これを専門の運送業者の手に委ねることとし、日本英油時代からの取引先であった池辺運送株式会社(以下「池辺運送」という。)の池辺専務に話を持ちかけたが、池辺専務は、種々の事情から右話を断った。そこで、原告吉川は、同じく従前から取引関係にあった三林運送株式会社(以下「三林運送」という。)の辻畑社長に生コンの輸送を依頼したところ、同人の実弟であり、同社の常務取締役であった辻畑秋成がこれを引き受けることになった。辻畑秋成は、かつて同社に勤務していた井阪に相談を持ちかけ、両名で新たな運送会社を設立する運びとなったが、井阪の子息が健康を害し、井阪が新会社の設立に参加できなくなったため、辻畑秋成のみが、昭和六〇年一一月二八日、成進を設立し、同年一〇月一日、営業を開始した。

(2) 事業所等

成進の本店は、設立当時、辻畑秋成の居宅があった大阪府和泉市(以下、略)におかれていたが、辻畑秋成の転居に伴い、前記住所地に移転した。

成進の配車業務は、同社の土井が、原告会社泉大津工場事務所内の一画で行っているが、これは、同工場において生コンの積込みがされるため、同所で配車を行う必要があるからである。

(3) 資本金

成進の資本金三〇〇万円は、すべて辻畑秋成が出資したものであり、原告会社や原告吉川は出資していない。

(4) 役員

成進の取締役は、昭和六三年六月三〇日当時、辻畑勝子、土井正美、小路山義隆、吉田敬次郎の四名であり、監査役は、辻畑秋成であった。原告会社又は原告吉川の関係者が、成進の役員に就任したことはない。

(三) 商店主

(1) 事業主

原告会社は、成進との間で運送契約を締結し、生コンの運送を同社に発注している。成進は、原告会社から受注した運送業務を日本一分会員ら商店主に委託(下請)し、各商店主が自ら保有するコンクリートミキサー車によりその運送業務に当たっている。成進が従業員を雇用して運送業務に当たるのではなく、商店主との間で請負契約を締結し、運送業務を委託しているのは、商店主の多くが、成進と契約を締結する以前から、自ら車両を保有し、事業主としてそれぞれ運送業務を営んでいたからである。

なお、成進と各商店主との契約内容は、当事者が自主的に決定したものであり、原告会社は一切関与していない。

(2) 請負契約

ア 契約締結に至る経緯

当初、成進と契約を締結した商店主は一二名であったが、いずれも井阪が募集したものであり、運賃等の契約内容は、井阪及び辻畑秋成が、商店主らと折衝して取り決めたものである。右契約内容については、原告会社は一切関与していない。

その後、成進は、業務量の増加に伴い、新たに商店主と契約を締結したが、右契約についても同様である。

イ 契約書

成進と各商店主らとの間の契約書は、後日、昭和六二年三月一日付けで取り交されている。

(3) 車両の保有

ア 商店主らは、自らコンクリートミキサー車を保有し、成進から委託された運送業務に当たっている。

イ 商店主のうち四名は、二台以上のコンクリートミキサー車を保有し、それぞれ従業員を雇用したり、下請を使うなどして運送業務を営んでいる。成進は、右商店主に対し、車両台数分の運賃等を支払い、右商店主は、その中から雇用している従業員の賃金や下請代金を支払っている。右商店主と従業員又は下請との間の契約内容は、当事者が自主的に決定したものであり、原告会社はもとより成進も一切関知していない。

(4) 経費の負担、納税等

ア 経費の負担

車検費用、修理費用、保険料、その他の経費(燃料、オイル、部品代等)、諸税(従(ママ)量税、自動車税、取得税等)などは、すべて各商店主が負担している。修理工場、ガソリンスタンドなどは、各商店主が自らの判断で選んでおり、成進がこれらを指定することはない。

その他、商店主が業務に従事する際着用する制服の半額、安全靴の全額が各商店主の負担である。

イ 税務申告

商店主は、各自、事業所得として確定申告を行い、所得税を納付している。平成元年六月度請求分(同年五月二〇日締め)からは、商店主から成進に対し、消費税を付加した金額が請求されている。

(四) 運賃

(1) 原告会社と成進との間の運賃

ア 大型車は一立米当たり二〇〇〇円、小型車は一立米当たり二二〇〇円(最低保障一日二万二〇〇〇円)である。大型車についても、割賦代金支払中は、一日二万五〇〇〇円の最低保障がされていた(ただし、一立米当たり一八〇〇円であった。)。これは、車両代金が高額であり、商店主が毎月相当額の割賦金支払いを余儀なくされるため、成進側の要請により、右期間中に限り、右最低保障がされることになったものである。昭和六二年に増車された大型車一〇台については、当初、最低保障は行わないとの話が進んでいたが、結局、成進側の強い要望により、同様の最低保障がされることになった。割賦代金完済後は、右最低保障はされていない。

このように、運賃は、原告会社が一方的に決定するのではなく、原告会社と成進とが協議をした結果、成進側の意向が相当に受け入れられる形で決定されている。

イ 当初、原告会社と成進との間では、毎月二〇日締め、翌月二八日払いの約定であったため、成進と商店主との間でも、同様の約定がされていた。しかし、商店主から成進に対し、割賦代金等の支払いに迫られるので運賃の支払日を早めてもらいたい旨の要望があり、これを受けた成進から原告会社に対し、運賃支払日の繰り上げ要請がされた。ところで、原告会社は、眞壁組を通して建築会社等から受注し、眞壁組から原告会社への支払いは、毎月二〇日締め、翌月二五日小切手又は手形払いとされていたため、毎月二五日に眞壁組から生コン代金と運賃相当額を小切手等で支払いを受け、これを現金化した上、同月二八日に運賃分を成進に支払っていた。そこで、成進から右要請を受けた原告会社は、眞壁組に対し、運賃分については原告会社を経由せずに直接成進に対して支払うよう要請し、眞壁組も右要請を了承したため、運賃分については、眞壁組から成進に対して直接支払いがされることとなった。その際、原告会社は、眞壁組に対し、「貴社に対する売掛代金(商品代金)の内より、当社から提出します金額(出荷配送料として別紙明細書を添付)を当社の取引先であります成進に対し毎月の貴社支払日二五日に直接お支払いくださいますことをお願い申し上げます。なお、念のため貴社に対し後日この件に関して一切のご迷惑をかけないことを誓約いたします。」と記載した昭和六〇年一一月一三日付け念書を差し入れた。

このように、眞壁組から成進に対して直接運賃分の支払いがされているのは、商店主の要望をかなえるための方策にすぎず、眞壁組と成進とが直接の契約関係にあるからではない。

(2) 成進と商店主との間の運賃

成進から商店主に対する運賃は、前記経緯で、毎月二〇日締め、翌月二五日払いである。商店主は、毎月二五日、自ら作成した日報に基づいて運送量を基準に運賃を算出し、これに看板料及び消費税を加算した請求書を成進に提出する。成進は、右請求書に誤りがないか否かをチェックした上、成進の社名が印刷された運賃袋に右金額を入れて商店主に支払い、商店主は、成進に領収書を発行する。その際、所得税等の源泉徴収はされず、商店主は、事業所得として確定申告を行い納税している。

原告会社は、成進と商店主との間の関係に関与したことはない。

(五) 運送業務の遂行

(1) 原告会社から成進に対する発注

原告会社から成進に対する運送業務の発注は、各日の作業完了時に翌日の出荷予定表のコピーを成進の配車担当の土井に交付する形で行われる。出荷予定表には、現場名、納入量、納入時間などが記載されている。

(2) 配車

原告会社からの受注分の各商店主への割当て(配車)は、右土井が行い、原告会社は一切関与しない。もっとも、配車順は、プラント帰着の順番によって機械的に決定されており、土井の裁量の余地はない。これは、運賃収入の平均化のために商店主らが話し合って決めたものであり、土井は、右商店主らの決定に従い機械的に配車しているにすぎない。

(3) 運送

土井は、積込みの順番が来た商店主を構内放送又は業務無線で呼び出し、呼出を受けた商店主は、バッチャー・プラントの下に入って生コンを積み込み、土井から伝票を受け取って納入現場に向かう。商店主は、現場に到着すると、現場監督の指示に従い生コンを積みおろし、右伝票に「荷受け」のサインをもらう。その際、原告会社の担当者が、現場に待機しており、到着した生コンの品質検査を行い、現場責任者の確認を求めるが、商店主に対して業務上の指示を与えることはない。商店主は、積みおろし作業が完了すると、プラントに戻り、右伝票を土井に提出し、次の出荷を待つ。商店主は、一日の作業が終了すると、運転日報を作成し、土井に提出する。

なお、現場までの輸送経路、待ち時間の過ごし方は、各商店主の判断に委ねられている。

(4) 運送業務の開始、終了など

ア 商店主については、就業規則その他これに類する規則はなく、商店主が運送業務に携わる時間は、各日の業務の繁閑によって異なり、一定しない。

土井は、右出荷予定表に基づき翌日の出荷計画を立て、運送開始時間を考慮して、商店主の集合時刻を決め、配車窓口に掲示して商店主に伝える。商店主は、右掲示をもとに集合するが、配車順が遅いものは、その時刻より遅れて集合することがある。商店主が、右集合時刻に遅れても、運賃の減額や懲戒などのペナルティーを課せられることはなく、遅刻届の提出や事前連絡を求められることもない。

イ 各日の運送業務は、その日の出荷予定がほぼ終了して新たな運送がなくなった時点で終了するところ、その判断は、辻畑秋成又は土井が行い、商店主に伝える。右終了時刻は、出荷量に応じて各日異なり、また、各商店主が最終の運送を終えてプラントに帰着する時間もまちまちであるため、各商店主の退社時間もばらばらである。なお、最低保障の対象となっている商店主についても、出荷の予定がない以上、一定時刻までの残留を義務づけられることはない。

(5) 営業日、休業日など

ア 商店主が運送業務に従事する日は、原則として原告会社のプラントが稼働する日である。原告会社のプラントが稼働しない日は、他のプラントからの注文がない限り、運送すべき生コンがなく、休業日となる。これは、前記原告会社と成進との運送契約からして当然の帰結である。

イ 商店主は、原告会社の稼働日であっても、個人的な事情により休業することがある。右休業の申出は、土井に対し、口頭でされる。土井は、運送量の多い日には休業しないよう要望することはあるが、営業を強制することはない。

(6) 代替性の有無

商店主は、個人的な事情で自ら運送業務に当たることができないとき、身内や友人など他の者にミキサー車を運転させて営業することがある。この場合も、当該商店主の売上として、所定の運賃が支払われている。また、前述のとおり、複数のミキサー車を保有して営業している商店主もいる。このように、商店主自ら運転業務に当たることが、絶対的に条件とされているわけではない。

(7) 他社の業務に従事することの可否

商店主は、最低保障を受けている期間中(大型車の場合は、割賦代金完済まで)は、他社の業務に従事することはできないが、その後は、原告会社以外の他のプラントの生コンを輸送することも自由である。

実際、被告組合日本一分会に所属する商店主らは、平成二年四月一一日ころから、ストライキと称して成進の注文を拒絶し、他の生コンプラントで稼働している。

(六) その他

(1) ミキサー車の保管場所

ミキサー車の保管場所の選択は、各商店主に任されており、原告会社はもとより、成進がこれを強制したことはない。かつて、夜間などに原告会社構内にミキサー車を駐車していたこともあったが、成進が、各商店主の購入したミキサー車の割賦代金の支払につき、保障(ママ)として自社振出の約束手形を自動車販売会社に交付していたことから、路上駐車による車両の破損等をおそれて、原告会社に対し、割賦代金完済までミキサー車を原告会社の構内に駐車させて欲しい旨要請し、原告会社が、好意的措置としてこれを容認したものである。その当時でも、商店主の中には、自宅又はその周辺に保管場所を設けてミキサー車を持ち帰っていた者もいた。

(2) ミキサー車の車体の表示など

ミキサー車は、原告会社のプラントと同色(緑)であり、その車体には原告会社名が表示されている。これは、ミキサー車が、基本的に原告会社の製造する生コンを輸送することから、広告宣伝効果を意図したものであり、これに対し、原告会社は、一定の宣伝料(看板料)を支払っている。

(3) 配車の場所

土井は、原告会社泉大津工場事務所内の一画で配車業務を行っている。これは、同工場において生コンの積込みが行われ、同工場から生コンが出発する関係上、同所で配車をする必要があるからである。

(4) 無線

ミキサー車には、原告会社から貸与された無線が取り付けられ、業務用の連絡に利用されている。当初、一台につき月一万円の無線使用料が支払われる約定となっていたが、成進側から原告会社に対して減額の要請があり、無線使用料を無償とする代わりに、原告会社の支払う右看板料を月期一万円から五〇〇〇円とすることとなった。

(5) 休憩室

原告会社は、プラントに出入りする運転手等の利用に供するため、構内の一画に休憩室を設けている。商店主らが休憩時にこの休憩室を利用することもあるが、商店主らの専用としているわけではなく、プラントに出入りするものであれば誰でも自由に利用できる。なお、前述のとおり、休憩時間の過ごし方は、各商店主に任されている。

(6) タイムレコーダー

原告会社では、従業員の勤怠管理はタイムカードで行われている。かつて、商店主が、原告会社のタイムレコーダーを使用し、タイムカードの打刻をしていたことがあったが、これは、最低保障の関係で商店主の出社を確認するため、成進側が独自の判断で行っていたものであり、原告会社が、その打刻を指示したものでも、それにより勤怠管理を行っていたものでもない。タイムカードは、成進側が用意し、その保管も成進が行っていた。

(7) 制服など

ア 原告会社は、従業員に社名の表示された制服を支給している。商店主も、一定の作業服を着用して業務に従事しているが、これは、成進が色・型式を指定し、成進及び商店主が各半額を負担して作製、着用しているものであり、原告会社が、着用を指示したり、色・型式を指定したものではない。右作業服には、成進の社名又は商店名が表示されており、原告会社名は表示されていない。

イ 商店主が、業務に従事する際着用する安全靴は、商店主個人が購入したものである。

また、商店主が業務中着用するヘルメットには、成進の社名が表示されており、原告会社名は表示されていない。

(七) 商店主らが労組法上の「労働者」に当たらないことについて

(1) 一般に、ある労働供給に関する契約が雇用契約かあるいは請負契約ないし準委任契約かは、契約の形式にとらわれず、当該契約当事者間に労働提供について実質上使用従属関係があるか否か、換言すれば使用者の指揮監督下に組み込まれていると評価しうるか否かについて判断して決しなければならない。そして、使用従属関係の有無を判断するメルクマールとなるのは、時間的・場所的拘束性の有無、仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、労務提供の代替性の有無、業務用具の負担関係等である。

(2) そして、成進と商店主らとの間には、前述のとおり、右いずれのメルクマールから考察しても使用従属関係は認められないのであって、商店主らは、労組法上の「労働者」に当たらないことは明らかである。

(八) 原告会社が労組法上の「使用者」に当たらないことについて

(1) 前述のとおり、原告会社と商店主らとの間には、雇用契約はもとより、いかなる契約関係も存在せず、また、原告会社と成進とは、相互に独立した法人格を有しており、資本関係、人的関係など一切存在しないのであるから、商店主らとの関係で、原告会社が使用者としての責任を負うべきいわれはない。

(2) また、原告会社は、眞壁組と代理店契約を締結し、原材料の多くを眞壁組を通して購入し、製造した生コンについても、眞壁組を通して販売しているところであるが、前述のとおり、もとより原告会社と眞壁組とは、相互に独立した法人格を有しており、原告会社が眞壁組の一製造部門にすぎないものではなく、また、眞壁組が、商店主らの就労にかかる諸条件を左右する権限を有しているとはいえないのであるから、眞壁組が、成進及び原告会社を介して又は一体となって、商店主らと事実上使用従属関係にあるとは認められない。

(九) よって、原告会社は、被告組合日本一分会員らとの関係で、いずれの意味においても「使用者」には当たらず、右分会員らとの団体交渉に応ずる義務はないのであるから、被告らの行為が、原告会社に対する適法な争議行為である旨の被告らの主張は失当である。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  被告らによる業務妨害行為等の有無について(請求原因1ないし6)

一  請求原因1、同3のうち、原告会社が仮処分申請をしたこと及び仮処分決定があったこと、同6のうち、被告川本が日本一分会の分会長兼書記長であったこと、被告大川が、同分会の副分会長であったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に証拠(〈証拠・人証略〉)(ただし、右証拠中、以下の認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  平成二年四月一一日に至る経緯

(一) 総評全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部(以下「近畿地本」という。)、被告組合及び日本一分会は、眞壁組、原告会社及び成進に対し、平成元年六月一二日、成進と業務委託契約を締結し、自己の所有するミキサー車で原告会社の製造する生コンの輸送業務を行っていたミキサー車運転手一一名が、被告組合に加入して日本一分会を結成し、被告川本が分会長兼書記長に、被告大川が副分会長に選出された旨の労働組合加入通知書(〈証拠略〉)及び日本一分会事務所等の貸与、労働条件等の変更についての事前協議の実施、組合活動の承認、実質使用者である眞壁組及び原告会社による雇用保障等の要求事項を記載した団体交渉申入書(〈証拠略〉)を手渡した。

これに対し、成進の辻畑秋成は、同月一七日、成進の取締役である吉田敬次郎と共に、被告組合事務所を訪れ、居合わせた被告組合書記長奥薗健児に対し、成進と日本一分会員らとの間には雇用契約関係はなく、右申入れには応じられない旨回答した。また、原告会社は、右申入れ三者に対し、同月一九日付け回答書(〈証拠略〉)で、原告会社と日本一分会員らとの間には雇用契約関係はなく、原告会社は、いかなる意味においても使用者の立場に立つものではないので、右申入れには応じられない旨回答し、眞壁組も、同旨の回答をした。

(二) そこで、近畿地本及び被告組合は、眞壁組、原告会社及び成進に対し、同月二一日、再度同様の団体交渉申入れをした(〈証拠略〉)。

これに対し、原告会社及び眞壁組は、同月二三日付け回答書(〈証拠略〉)により、また、成進は、同月二四日付け回答書(〈証拠略〉)により、それぞれ、日本一分会員らとは雇用契約関係はなく、右申入れには応じられない旨を重ねて回答した。

(三) そこで、被告組合は、大阪府地方労働委員会に対し、同月二六日、眞壁組、原告会社及び成進と被告組合との団体交渉のあっせんを申請した(〈証拠略〉)。

しかし、原告会社及び眞壁組は、同年七月三日、成進は、同月四日、前記理由で右申請を辞退した(〈証拠略〉)ので、被告組合は、同月二四日、右申請を取り下げた(〈証拠略〉)。

(四) また、被告組合は、大阪地(ママ)方労働委員会に対し、同年六月三〇日、原告会社及び成進を被申立人として、同月一二日付け団体交渉申入書記載の要求事項につき被告組合との団体交渉応(ママ)じなければならないとの救済命令を求める旨を申し立てた(〈証拠略〉)。

(五) 近畿地本、被告組合及び被告組合国土一生コン分会(以下「国土一分会」という。)は、眞壁組、国土一生コン及び成進に対し、同年七月四日、成進と業務委託契約を締結し、自己の所有するミキサー車で国土一生コンの製造する生コンの輸送業務を行っていたミキサー車運転手らが、被告組合に加入して国土一分会を結成し、下堂薗等が分会長に、中野勇三が副分会長に、木挽安広が書記長に選出された旨の労働組合加入通知書(〈証拠略〉)及び前記同様の要求事項を記載した団体交渉申入書(〈証拠略〉)を交付した。

これに対し、眞壁組は、同月八日付け回答書(〈証拠略〉)で、国土一生コン及び成進は、同月一四日付け回答書(〈証拠略〉)で、右申入れ三者に対し、国土一分会員らとの間には雇用契約関係はなく、右申入れには応じられない旨をそれぞれ回答した。

(六) その後、眞壁明と武委員長は、眞壁組と取引関係があった新和生コン株式会社(以下「新和生コン」という。)等の代表取締役であった田中裕(以下「田中」という。)の仲介で、同年一〇月一六日から、右問題につき六回にわたり三者会談を開いた。その間、眞壁明及び田中は、原告吉川、辻畑秋成らにも右三者会談の内容を伝え、被告組合との和解条件につき協議した。その結果、同年二月二八日の最終会談で、田中が眞壁明から二〇〇〇万円を借り受け、これを解決金として被告組合に支払う、被告組合員の運転手らは、新和生コンが引き取るとの基本的合意がされた。しかし、その後、田中と原告会社及び国土一生コンとの間で、右運転手らが新和生コンに移った後の運賃問題、最低保障問題等が合意に至らず、結局、被告組合との話合いは整わなかった(〈証拠・人証略〉)。

(七) そこで、被告組合は、同年四月一一日、ストライキに入る旨表明し、同日以降、日本一分会員らは、成進の運送業務に従事しなくなると共に、多数の組合員らを動員し、原告会社泉大津工場の入・出荷を妨害するようになった。

2  各日の入・出荷妨害行為

(一) 平成二年四月一一日(水)

(1) 午前七時二〇分ころ、被告組合の宣伝車一台及び大型バス一台が、多数の組合員らを乗せて、原告会社泉大津工場構内に進入し、バッチャープラントの生コン積込み口前に右宣伝車を停車、施錠をし、移動ができない状態にして、生コン車の出入り、積込作業ができない状態にすると共に、約一五〇名の組合員らが正門前にピケを張って、生コンの出荷を不能にした(〈証拠略〉)。

なお、同工場の車両の出入口は、右正門のみである(〈証拠略〉)。

(2) 午前七時五〇分ころ、右組合員のうち約一〇名の者が、工場事務所内に乱入し、「社長を出せ」「どこに隠れているのか」等と大声で喚き立てた。原告会社の西橋製造部長が、「社長はまだ出社していない」旨説明するとともに、業務妨害をやめ、右宣伝車等を移動させるよう求めたところ、組合員らは、同製造部長の胸ぐらをつかみ、「お前はここの責任者か」「お前は何者や」などと怒鳴り、右業務妨害をやめようとはしなかった(〈証拠略〉)。

(3) その後も、原告会社は、マイクの放送で構内からの退去を繰り返し求め、原告会社の従業員らが、「この工場と連帯労組とは一切関係ありません。速やかに解散して出荷と車両の通行妨害をやめよ! 日本一生コンクリート(株)泉大津工場社員」「営業出荷中につき、関係する生コン車、ダンプ等の出入りを妨害するな! 日本一生コン(株)」と記載した立て看板を示して、繰り返し業務妨害をやめるよう説得を重ねたが、右組合員らは一向に聞き入れず、右業務妨害行為を続けた(〈証拠略〉)。

(4) 原告吉川は、午前九時三〇分ころ、同工場にタクシーで出社した。原告吉川が、タクシーを降り、正門から事務所に向かったところ、右組合員らは、同原告に対し、「団体交渉に応じろ。」「人種差別をするな。」などと口々に罵声を浴びせた。同原告は、事務所で西橋製造部長らから状況報告を受けた後、構内が非常に険悪な空気であったので、従業員全員をいったん事務所に退避させたところ、構内に乱入していた組合員らも、正門まで退去した。

(5) そこで、同原告が、ショベル車を使って廃棄処分すべき戻り生コンの処理作業に取りかかったところ、多数の組合員らが再度構内に乱入し、同原告に対し、口々に悪口雑言を浴びせかけた。同原告が、これを無視して右処理作業を続けていると、右組合員らは、いきなり右ショベル車によじ登り、同原告の胸ぐらをつかんで引きずり下ろした上、殴る蹴るの暴行を加えた(〈証拠略〉)。

なお、同原告は、当日、大阪府泉大津市(以下、略)所在の医療法人吉川会吉川病院で吉川秀明医師の診察を受け、右膝打撲擦過創、両上腕打撲傷により約一週間の加療を要する旨診断された(〈証拠略〉)。

また、同原告は、同月二六日、泉大津警察署に対し、右傷害事件について告訴状(〈証拠略〉)を提出した。

(6) 午後〇時三〇分ころ、組合員らは、バッチャープラント下に施錠して放置していた右宣伝車を工場外に移動させたので、原告会社は、午後一時、生コン車を構内に入れ、生コンを積み込んで出荷しようとしたところ、右組合員らは、正門前にピケを張り、業務妨害をやめるようにとの原告会社の求めを聞き入れず、妨害行為を続けたため、右出荷は不能に終わり、積み込んだ生コンは、廃棄処分にせざるを得なかった。

(7) 右出荷妨害は、午後三時ころまで続き、その後、組合員らは、右宣伝車及び大型バスに分乗して引き上げた。

(二) 同月一二日(木)

午前六時三〇分ころから午後三時ころまで、組合員ら約五〇名が、泉大津工場の正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を妨害した。

(三) 同月一三日(金)

午前七時三〇分ころ、約六〇名の組合員らが、宣伝車及び大型バスに分乗して、泉大津工場に押しかけ、セメントの圧送口の前に右車両を駐車させるなどして、終日セメントの入荷を妨害した。また、一部生コンの出荷も妨害した。

(四) 同月一四日(土)

セメント圧送口の前に車両を駐車させるなどして、終日セメントの入荷を妨害した。

(五) 同月一六日(月)

午前六時三〇分ころ、約九〇名の組合員らが泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って、終日、生コンの出荷及びセメントの入荷を妨害した。

(六) 同月一七日(火)

午前七時三〇分ころ、約一五〇名の組合員らが泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って、終日、生コンの出荷及びセメント、軽量骨材の入荷を妨害した。

午後〇時三〇分ころ、原告会社は、生コン車(四トン、三七号車)に生コンを積み込み、出荷を図ったが、組合員らが、生コン車の面前に宣伝車を停車させ、ピケを張るなどして右出荷を妨害したため、生コンを廃棄処分にせざるを得なかった(〈証拠略〉)。

(七) 同月一八日(水)

組合員らは、ピケを張るなどして、終日、セメントの入荷を妨害した。

(八) 同月一九日(木)

午前七時三〇分ころ、約一〇〇名の組合員らが泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って、終日、生コンの出荷を妨害した。また、セメント送圧(ママ)口前に車両を駐車させて、セメントの入荷を妨害した(〈証拠略〉)。

(九) 同月二〇日(金)、二一日(土)

両日、組合員らは、セメント圧送口前に車両を駐車させるなどして、終日、セメントの入荷を妨害した。

(一〇) 同月二三日(月)

午前七時四〇分ころ、約二〇〇名の組合員らが、宣伝車二台及びバス二台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前やセメント圧送口前にピケを張るなどして、生コンの入(ママ)荷及びセメントの出(ママ)荷を妨害した(〈証拠略〉)。

(一一) 同月二四日(火)

組合員らは、ピケを張り、また、セメント送圧(ママ)口前に車両を駐車させるなどして、セメントの入荷を終日妨害した(〈証拠略〉)。

(一二) 同月二五日(水)

(1) 午前七時四五分ころ、約二〇〇名の組合員らが、バス四台及び宣伝車二台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って生コンの出荷を妨害した。

(2) 午前八時すぎころ、川崎組合員が事務所内に乱入し、居合わせた商店主の一人である音地一美(非組合員)の腕をつかみ、外に引きずり出そうとしたが、原告会社の従業員が制止したため、音地を事務所外に引きずり出すことはできなかった。音地は、右暴行により手首と腕を負傷した。

(3) その間、六、七名の組合員が事務所内に乱入し、同じく商店主の一人である岡本弘幸(非組合員)を事務所外に引きずり出して、殴る蹴るの暴行を加えた。岡本は、右暴行により身体の諸所に負傷を負い、救急車で病院に運ばれた(〈証拠略〉)。

(4) 午前九時ころ、通報を受けた警察官が到着したところ、午前九時二〇分ころ、組合員らは全員退去した(〈証拠略〉)。

(一三) 同年五月一二日(土)

午前七時三〇分すぎころ、約一〇〇名の組合員らが、宣伝車四台、バス三台及び乗用車数台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前に宣伝車二台を横付けし、ピケを張るなどして、生コンの出荷、セメントの入荷を終日妨害した。

(一四) 同月一四日(月)

午前七時四〇分ころ、約一〇〇名の組合員らが、宣伝車三台及びバス二台に分乗して、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張って生コンの出荷を終日妨害した。

なお、原告会社は、当庁に対し、同月一五日、被告組合を被申請者として、右妨害行為の差止めを求める仮処分を申請した。

(一五) 同月一七日(木)

(1) 午前七時四〇分ころ、約六、七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を終日妨害した。

(2) その際、西橋製造部長が、当時被告組合副執行委員長であり、本件現場で組合員らを指揮していた宮脇に対し、業務妨害をやめるよう抗議したところ、同人は、「自分の判断だけでは行動の変更はできない」と述べ、西橋製造部長が「それではミキサー車一台、生コン一立米でも出荷の妨害をするのか」と問い質したところ、同人は「自分の立場として、上からの指示できている以上、絶対にやる」と答え、なおも業務妨害を続けた。

(3) また、多数の組合員らが、原告会社の取引先の一つであるアイサワ工業に押しかけ、「日本一生コンの生コンを使うな」「契約を解除せよ」などと要求して、同社の現場事務所に乱入した(〈人証略〉)。

(一六) 同月一九日(土)

(1) 午前八時すぎころ、多数の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。ミキサー車(三二号車)が、生コンを積載して何度か出荷を試みたが、組合員らは、同車の進路直前に多数が立ちふさがり、また、宣伝車を停車させるなどして、その出荷を妨害した。このため、同車は出荷が不可能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった(〈証拠略〉)。

(2) その際、原告会社の中神課長が、右出荷妨害の状況を撮影しようとしたところ、数名の組合員が、同課長の手からカメラを取り上げようとして、同課長と揉み合いになり、同課長は、ようやく右組合員らの手を逃れて脱出した(〈証拠略〉)。

(一七) 同月二六日(土)

午前七時四〇分ころ、約八〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。ミキサー車(七一号車)が、生コンを積載して出荷しようとしたが、組合員らは、同車の進路直前に宣伝車を横向きにして停め、また、多数が立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、同車は、午前八時三〇分ころ、出荷を断念して、積載していた生コンを廃棄処分にした(〈証拠略〉)。右出荷妨害は、午後二時ころまで続き、その間、生コンの出荷が全くできなかった。

(一八) 同月三〇日(水)

午前七時三五分ころ、六、七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、ピケを張るなどして生コンの出荷を終日妨害したため、生コンの出荷が全くできなかった。

(一九) 同年六月二日(土)

午前七時四〇分ころ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。組合員らは、生コンを積載したミキサー車の一台目(三二号車)は、妨害せずに出荷させたが、午前八時三〇分ころ、二台目(三三号車)が出荷しようとしたところ、同車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害したため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった(〈証拠略〉)。さらに、組合員らは、三台目(三五号車)に対しても、同様の出荷妨害を続けた(〈証拠略〉)。

(二〇) 同月五日(火)

午前七時三五分ころ、約七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。午前八時過ぎころ、ミキサー車(三一号車)が、生コンを積載して出荷しようとしたが、組合員らは、同車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、同車は、午前九時二〇分ころ、出荷を断念して、積載していた生コンは廃棄処分にした(〈証拠略〉)。

(二一) 同月八日(金)

午前七時四〇分すぎころ、約七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた(〈証拠略〉)。組合員らは、生コンを積載したミキサー車の一台目(三五号車)は、妨害せず出荷させたが(〈証拠略〉)、午前九時三五分ころ、二台目(三六号車)が出荷しようとしたところ、同車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害したため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった(〈証拠略〉)。

(二二) 同年七月一二日(木)

午前七時四〇分すぎころ、約五〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。ミキサー車(三七号車)が、生コンを積載して出発しようとしたが、組合員らは、同車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、出荷が不能となり、積載していた生コンは廃棄処分にせざるを得なかった(〈証拠略〉)。

(二三) 同年八月二四日(月)

午前七時五〇分ころ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を終日妨害した。

(二四) 同年一〇月五日(月)

(1) 午前七時五〇分ころ、約五、六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけ、正門前にピケを張るなどして生コンの出荷を妨害した。

(2) また、組合員らは、原告会社の建設現場の現場事務所にも押しかけて、荷下ろしの妨害をすると共に、「不良生コンを採用するな」「日本一生コンの生コンを使うな」などと申入れる等の行動をとったため、同事務所から原告会社に対し、すぐに妨害を排除せよとの電話があった。

(二五) 同月一二日(月)

午前九時一〇分ころ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場前に集結した上、竹内建設の光明台北小学校増築工事現場に押しかけ、荷卸の妨害をしたため、これを中止せざるを得ないことになった。

その際、原告会社は、右妨害行為前に既に約五〇立米の打設を完了していたが、当日の工事をその段階で中止し、日を改めて生コンの打設を継続するような工法は、既打設部分との間に断層を生じ、クラック(ひび割れ)の原因となるため、採り得ないので、真(ママ)壁組から菱木生コンへ依頼し、生コンを納入してもらって打設を継続した。右のような生コンの混合については、右現場の技術者の技術的に問題はないとの判断に従って行った。

しかし、原告会社は、その後、右工事の施工者である和泉市から、混合生コンは禁止されていることを理由に、右既打設部分の撤去を求められ、これを撤去した。

(二六) 同月一九日(月)

午前九時すぎ、約六〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。午後一時一一分ころ、ミキサー車(六七号車)が、生コンを積載して出発しようとしたが、組合員らは、同車の進路直前に立ちふさがるなどして、その出荷を妨害した。このため、同車は、午後一時五五分ころ、出荷を断念し、積載していた生コンを廃棄処分にした(〈証拠略〉)。

(二七) 同年一一月二〇日(金)

(1) 当庁は、原告会社が申請していた前記仮処分事件について、同月六日、原告会社が一〇〇万円の保証を立てることを条件として、申請どおり妨害行為の禁止を命じる決定をした(〈証拠略〉)。

(2) しかし、同月二〇日も、約七〇名の組合員らが、泉大津工場に押しかけた。午前一〇時五分ころ、ミキサー車(七三号車)が、生コンを積載して出荷しようとしたが、組合員らは、同車の進路直前に立ちはだかり、また、過積載は認めないなどと称して、同車のドラムのステップを昇り、ドラム内を撮影するなどして、その出荷を妨害した(〈証拠略〉)。

3  原告会社の取引先に対する妨害行為

(一) 被告組合は、原告会社に対する右妨害行為のほか、平成元年七月以降、原告会社と取引関係にある鹿島建設株式会社、村本建設等の建設会社に対し、「原告会社が労働組合を認め問題の早期解決を図るよう、適切な影響力を行使していただくことを要請します。」「原告会社への行動の組織化によって、貴殿に対してもご迷惑をおかけすることがあるかもしれないことを、予めお断り致します。」「労使紛争が解決するまで、眞壁組グループ(原告会社、国土一生コン)との取引を見合わせていただくことを要請します。」などと記載した要請書(〈証拠略〉)を持参又は郵送して交付した。

(二) 加えて、組合員六、七名が、平成二年五月一四日午前一〇時前ころ、村本建設の工事現場に宣伝車で訪れ、村本建設が原告会社の生コンを打設しているのを確認すると、宣伝車及び大型バスで五、六〇名の組合員を動員した。組合員らは、右現場の仮設塀の門の両側に宣伝車を駐車し、回りを取り囲み、ミキサー車の進入を妨害すると共に、村本建設の現場責任者中筋正浩(以下「中筋」という。)に対し、「労使交渉に応じろ。」などと詰め寄った。そこで、中筋は、午前一〇時三〇分ころ、警察の出動を要請すると共に、別会社からの生コンの調達を指示した。組合員らは、駆け付けた警察官の指示により、午後〇時三〇分ころ、右現場から退去したが、右妨害により村本建設の打設工事は、大幅に遅れることになった(〈証拠略〉)。

(三) 被告組合の原告会社の取引先に対する右のような妨害行為により、原告会社は、多くの取引先から取引を停止された。

4  原告吉川に対する違法行為

(一) 被告組合員らは、前記2(一)(5)認定のとおり、平成二年四月一一日、原告吉川に対し、暴行を加え、約一週間の加療を要する右膝打撲擦過創、両上腕打撲傷を負わせた。

(二) また、原告組合は、「日本一生コン争議ニュース」等のビラを作成し、原告吉川が右翼団体を使って被告組合員らを威圧した旨を同原告の顔写真入りで記載し、広く市民に配布した(〈証拠略〉)。

(三) なお、原告らは、被告組合が、原告吉川の自宅周辺で、多数回にわたり、同原告を誹謗中傷する演説を行い、さらに、同原告の自宅にいたずら電話を繰り返した旨も主張するが、右各事実を認めるに足りる証拠はない。

二  以上の事実を認めることができるところ、被告らは、これと異なる事実を主張するので順次検討する。

1  被告らは、原告吉川が、ショベルカーに近付いた組合員らの頭上から残コンをばら撒こうとしたため、組合員らは、ショベルカーによじ登り、同原告を地上に抱き降ろしたのであって、同原告に対し、暴行を加えた事実はない旨主張し(第二、二、3、(一)、(4))、(証拠略)により、被告らの右主張は裏付けられるものとする。

しかし、前掲(証拠略)によれば、組合員らが、ショベルカーによじ登った際には、ショベルカーのアームは下げられており、また、ショベルカーの付近やショベル内に残コンが認められないことからしても、被告らの右主張は採用できない。

2  被告らは、原告会社は、終日、自ら正門を閉めてロックアウトするなどし、出荷業務をしなかったことがあり、同日は、組合員らが出荷妨害をしたものではない旨主張し(第二、二、3、(二)ないし(四))、(証拠略)により、被告らの右主張は裏付けられるものとする。

しかし、右証拠をもってしても、原告会社が出荷業務を行う予定でなかったとか、右正門が終日閉鎖されていたとは認めるに足りないし、右同旨の(証拠略)の記載部分、被告川本の供述は、前掲各証拠に徴し採用し難く、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  被告らは、被告組合員らが行った行為は出荷しようとした運転手に対する説得活動であり、運転手がこれに応じて出荷を取りやめたものにすぎない旨主張する。

しかし、前掲(証拠略)など前掲各証拠によれば、多数の組合員らが原告会社の正門から出荷しようとするミキサー車の進路直前に立ちはだかり、取り囲み、また、被告組合の車両を停車させるなどの行為が認められ、これをもって説得活動を行っているものとは到底認め難いこと、右ミキサー車を運転していた運転手らは、いずれも被告組合の車両や組合員らにより進路をふさがれたため、出荷を断念せざるを得なかった旨記載しており、同書面の記載からも右運転手と組合員らとのやり取りは説得とは到底いい難いものであること(〈証拠略〉)が認められ、右の事実に徴すると、被告らの右主張は採用できない。

三1  前記一2ないし4認定事実からすれば、被告組合は、平成二年四月一一日以降、多数の組合員を原告会社泉大津工場に動員し、同工場正門前に車両を駐車し、ピケを張るなどの実力を行使して、原告会社の出・入荷妨害を繰り返し、もって、予定されていた出・入荷業務を阻止し、加えて、原告会社の取引先に対し、前記要請書を交付し、組合員を動員するなどして、原告会社の信用を毀損し、原告会社の取引を停止させ、原告会社の業務遂行を事実上不可能にしたものであり、また、組合員らは、右妨害行為の過程で、原告吉川に暴行を加えて負傷させ、さらに、被告組合は、原告吉川に関する右ビラを広く配布し、同原告の名誉を毀損したものと認められる。

そして、被告組合の右一連の行為は、前記一1判示の経緯から、被告組合執行部の指揮のもとに行われたものであり、また、原告会社泉大津工場での一連の妨害行為は、当時被告組合の副執行委員長であった宮脇の現場指揮のもとに行われていたものであったと認められる。

よって、被告組合は、原告会社及び原告吉川に対し、右各行為につき、不法行為責任(民法七〇九条、七一〇条)を負うものということができる。

2  原告らは、被告川本は、日本一分会の分会長兼書記長であり、被告大川は、同分会の副分会長であり、右各行為を被告組合と共謀して行い、これを指示したものであるから、被告組合と共にその責任を負うべきである旨主張する。

右被告両名が日本一分会の役員であったことは当事者間に争いはないが、右一連の行為につき、右被告両名と被告組合の共謀及び被告両名が現場指示したことを認めるに足りる証拠がないばかりか、本件全証拠によっても、右被告両名の現場における具体的行動は明らかではない。そして、被告組合の右一連の行為が、被告組合の執行部の指揮のもとに行われたものであると認められることは前判示のとおりであること、原告会社泉大津工場に動員された被告組合員は、日本一分会員数を大きく上回るものであったこと、右一連の行為の中で、日本一分会員らが特別な行動を採ったとは認められないことからすれば、被告両名は、右一連の行為に指導者としてではなく、被告組合の一組合員として参加したものと解するのが相当である。

よって、右被告両名は、被告組合の右一連の行為につき、個人的に責任を負うべき理由を認めることはできない。

第二  被告らは、原告会社は、被告組合日本一分会員らとの関係で、労組法七条の「使用者」に当たり、被告組合の右一連の行為は、すべて労働組合の使用者に対する正当な争議行為であって、違法性が阻却される旨主張する(抗弁)ので判断する。

一  証拠(〈証拠・人証略〉)(ただし、右証拠中、以下の認定に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1(一)(1) 原告吉川は、日本英油及び吉川物産を経営し、全国網で石油製品関係、貿易関係の業務を行っていたが、オイルショックにより相当の赤字を出したため、取引銀行の支店長に相談をしたところ、同支店長から石油関係は今後波が多くなるから、今のうちに規模を縮小していった方がよいとのアドバイスを受け、近畿地区中心に規模を縮小すると共に、地域に定着できる他業種への転業を考えた。そこで、先輩、友人等に相談をし、市場調査を繰り返した結果、泉州地区では、関西新空港関連で開発が見込まれ、同地区での生コン製造業が有望であるとの判断に至った。

眞壁明は、原告吉川の旧制中学時代からの友人であり、同原告から右相談も受けていた。眞壁明の経営する眞壁組は、砂利、砂、骨材等の採取・販売を業とし、昭和五八年ころからは、生コンの転売も始めていたところ、眞壁明は、生コン業界の将来展望が明るいと考え、生コン業界への本格参入を考えていた。

(2) そこで、両者の思惑が一致し、原告吉川は、眞壁明の協力のもと、生コン製造業を始めることになった。原告吉川は、昭和六〇年九月九日、生コンの製造・販売等を目的とする原告会社を設立し、自ら代表取締役に就任した(〈証拠略〉)。眞壁明は、自己の所有する大阪府泉大津市の土地に、眞壁組の費用で生コンプラントを建設し、眞壁組と原告会社の間で期限を一〇年間とするリース契約を締結し、原告会社に右プラントを貸与した。また、眞壁組は、従前から建設会社等と広く取引があったため、原告会社は、眞壁組と代理店契約を締結し、眞壁組から生コンの原材料を仕入れると共に、製造した生コンも眞壁組を通して販売することにした。

(3) そして、原告吉川及び原告の妻禎子は、原告会社の資本金一〇〇〇万円のうち九割以上を出資し、原告会社の株式の九割以上を保有している。なお、原告吉川は、原告会社の設立に当たり、七名の発起人を揃えるため、眞壁明に依頼し、同人の妻和子及び娘夫婦重雄、左知子の名前を借り、そのまま取締役として登記したが、右三名は、実際には出資しておらず、原告会社の経営にも関与していない。

(二)(1) 生コン製造業では、製造した生コンを運送する車両が必要であったが、原告吉川は、右相談、調査の過程で、配車関係等をめぐり運転手間でのトラブルが多発するとの情報を得、また、運送業の経験もなかったことから、生コンの運送については運送業者に発注することにし、昭和五九年末ないし昭和六〇年初めころから、運送会社に対して交渉を始めた。

(2) 最初、原告吉川は、日本英油の取引先であった池辺運送の池辺専務に相談を持ちかけたが、池辺専務は、現段階では余裕がないとして、同原告の申入れを断った。次に、原告吉川は、同じく取引先であった三林運送の辻畑社長に相談を持ちかけたところ、辻畑社長からは、三林運送としては受けられないとの返答であったが、辻畑社長の実弟であり、三林運送の常務取締役であった辻畑秋成が、同原告の申入れを受け入れてもよい旨の返答があり、辻畑秋成が、新たに運送会社を設立して、原告会社の製造した生コンの運送に当たることになった。

(3) そこで、辻畑秋成は、同年三月ころ、かつて三林運送に勤務していた井坂(ママ)尹(以下「井坂(ママ)」という。)に相談を持ちかけ、両名で運送会社(成進)を設立することとし、ミキサー車の運転手の募集を開始したところ、井坂(ママ)の知り合いのダンプカーの個人営業主らが応募をしてきた。辻畑秋成らは、営業開始までに一〇回程度応募者らとの会合を持ち、応募者らに対し、各運転手がミキサー車を購入して生コン運送を行うこと、ミキサー車の購入については、各運転手が販売店との間で、所有権留保特約付きの割賦売買契約を締結し、運賃収入から右割賦代金完済後、各運転手にミキサー車の所有権が移転するという償却制を採ること、運賃収入、最低保障額等について説明した。そして、辻畑秋成らは、右応募者の中から、被告川本を含む一二名の運転手と運送業務委託契約を締結し、同年一〇月一日、原告会社泉大津工場の事務所内に配車業務用の机を借り、日本一生コンの製造する生コンの運送業務を開始し、右業務の開始に遅れる同年一一月二八日、成進の設立登記をした(〈証拠略〉)。なお、井坂(ママ)は、子息が健康を害したため、右運送業務開始日のみ出社し、直後に成進の経営から離れた。

(4) 成進と運転手らとの間の運送業務委託契約について、当初は契約書等は作成されていなかったが、両者は、昭和六二年三月一日付けで覚書(〈証拠略〉)を交わした。右覚書には、

「成進(以下甲という)と○○商店(以下乙という)との間において下記の通り協定し覚書を交換する。

1. 購入車輌代金は○○商店の毎月の収入より差引く。

2. 車輌代金分割終了後は乙に無償で車輌を引渡す。

3. 車検、修理、諸経費(重量税、自賠責、自動車税、取得税、保険、燃料、オイル、タイヤ)、代金はすべて乙の負担とする。

4. 甲は乙に対し経済事情の変動、業務上の都合により一ケ月前に予告をして解約することができる。

5. 乙は本件業務の遂行に当っては甲の営業上の秘密を保持し甲の不利益となるような行為を行ってはならない。

6(1) 乙は本件業務の遂行に当り甲の業務に重大なる事態又は支障が発生もしくは発生する恐れがある場合には除去防止に必要適切な措置を講じ遅滞なく甲に報告しなければならない。

(2) 前項の場合甲は必要に応じて乙に対し適切な助言指導を行う。その場合の諸経費は実費乙が負担するものとする。

7. 免責金額は乙の負担とする。

8. 乙は甲に対し別紙保証人の書類を提出しなければならない。

9(1) 乙は甲に対して本件業務の遂行の対価として料金を支払う。

(2) 前項の料金は経済情勢の著しい変化、その他甲又は乙が改定の必要を認めたときにはその都度、甲、乙協議の上改定する事ができる。

10.(ママ) 乙の売上額の %は甲が収受することができる。

11.(ママ) 覚書は締結の日より有効期間を定めず甲、又は乙より別段の意思表示がない限り自動的延長し以後これにならう。

12.(ママ) 得意先の苦情の多い場合は休車させることもある。

覚書の成立を証するため本書二通を作成し甲、乙各自記名捺印の上甲、乙各一通を保有する。」

との記載があり、原告会社及び運転手(商店名)がそれぞれ記名・押印している。

また、運転手らは、成進に対し、成進との契約事項、諸規則等を遵守する旨の誓約書に記名(商店名)・押印して提出した(〈証拠略〉)。

(5) なお、運転手らは、生コン協同組合との関係で、大阪府内の自動車販売会社からミキサー車を購入することが困難であったため、日産ディーゼル奈良販売株式会社でミキサー車を購入した。そして、自動車登録、車庫証明等の関係から、当初、右車両の自動車検査証上の使用者は、奈良県在住の原告吉川とし、割賦金完成後、運転手ら名義に変更する方法を採った(〈証拠略〉)。

2(一) 生コンの運送業務は次のとおり行われる。

(1) 原告会社の西橋製造部長は、各日の業務終了時、成進の配車係の土井に対し、現場名、納入量、納入時間等を記載した翌日の出荷予定表のコピーを交付することにより、成進に運送業務を委託する。土井は、右出荷予定表に従い、翌日の運転手らの集合時間を決め、配車窓口に掲示する。

しかし、成進では、運転手らの申入れにより、前回運送時の原告会社への帰着順に従い機械的に配車されることになっており、自己積込時間がほぼ予測できるため、右積込時間に合わせて、原告会社に出社する運転手もおり、運転手全員が右集合時間に揃うわけではない。仮に、積込時間に来ていなかったとしても、配車順が後に回されるだけであり(この措置も運転手らの申入れによるものである。)、それ以上のペナルティーが課せられることはない。なお、仕事を休んだり、途中で帰宅したとしても、翌日の配車の際、同様のペナルティーが課せられるだけである。

(2) 土井は、積込みの順番が来た運転手を構内放送又は無線で呼び出し、右呼出を受けた運転手は、自己のミキサー車をバッチャー・プラントの下に入れ、生コンを積込む。運転手は、土井から伝票を受け取り納入現場に向かうが、納入現場までの経路は、運転手の判断に任されており、運転手同士が無線で連絡を取り合って、交通量の少ない道を選んだりしている。現場に到着すると、現場監督の指示に従い生コンを納入し、持参した伝票にサインをもらい、原告会社に戻る。

(3) 原告会社に帰着した運転手は、土井に右伝票を渡し、次の配車を待つ。待機時間の過ごし方は、運転手らの自由であり、休憩室を利用する者、構外に停めたミキサー車の中で待機する者、ゴルフの練習をする者などそれぞれである。

(4) 各日の運送業務の終了は、土井が出荷状況をみて判断し、運転手らに伝える。運転手らは、業務日報を作成し、土井に提出した後、自由に帰宅する。

(5) なお、成進では、当初、タイムカードによる出社の確認が行われていたが、これは、後記最低保障との関係で、運転手らが運送業務に従事した日数を把握するために利用されていたにすぎなかった。また、最低保障期間中でも、運送業務が早く終了した場合には、土井が代わりにタイムカードに打刻するなどして便宜を図り、運転手らの帰宅は自由であった。

(二)(1) 原告会社から成進に支払われる運賃は、大型車が一立米当たり二〇〇〇円(当初は一八〇〇円)、小型車が一立米当たり二二〇〇円であるところ、大型車については、割賦金支払いの関係から、右支払期間中に限り一日二万五〇〇〇円の最低保障が、小型車については、運送能力の関係から、一日二万二〇〇〇円の最低保障がされている。右運賃は、原告会社と成進の協議により決定したものである。

成進は、原告会社が支払う右運賃から一定の管理料を控除して、運転手らに運賃を支払う。運送業務開始前の辻畑秋成と運転手らの話合いでは、右管理料を売上の一三パーセントとする旨合意されたが、実際に運送業務を開始すると、当初はあまり売上が上がらなかったので、運転手らの要望により一台当たり月一万五〇〇〇円とするなど状況に応じて変更された。

(2) 原告から成進への支払は、毎月二〇日締め、翌月二八日払いであるため、成進から運転手らへの支払も、当初、同様になされていた。しかし、運転手らから、できるだけ早く支払ってもらいたいとの要望が強かったので、辻畑秋成は、原告会社と交渉し、眞壁組から原告会社に毎月二五日に支払われる運賃込みの生コン売買代金のうちの運賃部分を直接成進に支払ってもらうこととし、運転手らへの支払を毎月二〇日締め、翌月二五日払いとした。その際、原告会社は、眞壁組に対し、「貴社に対する売掛代金(商品代金)の内より、当社から提出します金額(出荷配送料として別紙明細書添付)を当社の取引先であります株式会社成進に対し毎月の貴社支払日二五日に直接お支払い下さいます事をお願い申し上げます。尚念のため貴社に対し後日この件に関して一切の御迷惑をかけないことを誓約致します。」と記載した昭和六〇年一一月一三日付け念書(〈証拠略〉)を差し入れた。

(3) 成進から運転手らへの運賃支払いに当たっては、源泉徴収はされておらず、各運転手が、個人で納税申告を行っている。

二  原告会社の労組法七条の「使用者」該当性について

1  労組法七条にいう「使用者」とは、労働契約上の雇用主のほか、雇用主以外の事業主であっても、形式上の雇用主が独立の使用者としての実体を有していないため、労働者に対して自己の従業員と同様に指揮監督を行い、賃金等についても実質的に決定している場合、あるいは、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させている結果、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、当該事業主は、その限りにおいて、同条の「使用者」に該当するものと解するのが相当である(最高裁昭和五一年五月六日第一小法廷判決民集三〇巻四号四〇九頁、最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決民集四九巻二号五五九頁参照)。

2  被告らも原告会社と日本一分会員らとの間に直接の雇用契約が存在すると主張するものではない。

そして、右認定の事実によると、成進は、専ら原告会社の製造する生コンクリートの輸送を受け持つ会社であって、独自の営業設備をほとんど持たず、日常の活動は、原告会社の事務所内に机を借り受けて、原告会社の製造する生コンクリートについて運転手らに対し、その配車業務を行っているにすぎなかったが、同社は、運送下請契約を結んでいる運転手らからの運賃の請求をとりまとめ、眞壁組から受領した右運賃からミキサー車の償却費用を控除してこれを販売店に弁済し、運賃明細書を作成の上その余を各運転手に交付しているなどの業務を行っていたこと、同社は、原告会社、眞壁組らとは資本関係も人的関係も認められない独立した法人であること、運転手らの受領する報酬は、各運転手と成進との間の契約に基づいて、各自の輸送実績に応じた歩合給ないし最低保障額が支払われていたことを認めることができ、これらの事情を総合すると、成進は、その法人格が形骸化し、あるいは独立の使用者としての実体を有しないとは到底認めることはできない。

したがって、成進の法人格が否認されること等を前提に、原告会社を日本一分会組合員らの「使用者」として両者の間の直接の雇用関係を認めることもできない。

3  さらに進んで、原告会社が日本一分会員ら運転手の基本的な勤務条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかについて検討する。

右認定の事実によると、原告会社の代表者である吉川は、運送業界に詳しくはなかったため、原告会社が、操業開始に当たって、その製造する生コンクリートの輸送をすべて外注によってまかなおうとしたものであり、このことは、企業経営上の一つの選択であると評価するに妨げがないこと、原告会社の西橋製造部長が各日の業務終了後に、前判示のような方法で成進に対し運送業務を委託すると、これを受けて成進の配車係土井が出荷予定表に従い、翌日の運転手の集合時間を決め、配車窓口に掲示すること、具体的な配車は、運転手の申入れにより原告会社への帰着順に機械的に配車され、原告会社が運転手らに対し何ら具体的な指揮命令を行っていたとは認められないこと、運転手が配車時間に来ていなかったとしても、配車順が後に回されるだけで、成進からも原告会社からもそれ以上のペナルティが課されることがないこと、生コンの積込みは、土井が順番の来た運転手を構内放送で呼び出し、それに従って運転手が行動するなど、積込み、運送、納入、帰社に至るまで具体的な指示を原告会社から受けることがないこと、待機時間の過ごし方も運転手の自由に委ねられていたこと、作業終了後も土井の判断に従い、業務日誌を作成し、土井に提出して帰宅していたことなどの事実を認めることができ、右の事実を総合すると、原告会社が、日本一分会員ら運転手の基本的な勤務条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとは到底認めることができない。

4  もっとも、原告会社が日本一分会員らの「使用者」に該当するというためには、右分会員らと成進との間の契約が労働契約であることを要するので、念のため、成進と右分会員らとの間の契約の法的性質につき判断する。

(一) 当事者間の契約が労働契約であるか否かは、契約の形式のみによらず、当事者間に支配従属関係が存在するか否か、具体的には、勤務について労務提供者に諾否の自由があるか否か、報酬が労務提供の対価として支払われているか否か、労務提供者に対して、労務提供について時間的場所的拘束及び具体的な指揮監督が行われているか否か、服務規律の適用の有無等を総合して判断するのが相当である。

(二) 前記一の事実からすれば、右契約内容の決定に当たっては、運転手らの意思が少なからず尊重されており、また、右契約締結後も運転手らの要望により契約内容が柔軟に変更されていたこと、生コン運送に使用するミキサー車は、各運転手が所有権留保付き割賦売買で購入したものであり、右割賦金完済後は、運転手らの所有となるものであったこと、運転手らに支払われる運賃は、原則として運送した生コンの立米数により算出されていたこと、右運賃の支払いに当たって、所得税等の源泉徴収はされていなかったこと、時間の経過と共に劣化するという生コンの性質上、原告会社からの受注内容に応じて、運転手らの集合時間は一応決められていたが、自己の出荷時間に遅れなければ何らペナルティーを課せられず、仮に右出荷時間に遅れたり、休業したとしても、配車順が後回しになるという以上にはペナルティーは課せられず、右ペナルティーも運転手ら同士が取り決めたものであること(そもそも配車順も、運転手ら同士が取り決めたものである。)、終業時間は、出荷状況に応じて各日まちまちであり、出荷が終了すれば、帰宅は自由であり、結局、運転手らは、生コン運送業務に携わる以外には、成進から時間的な拘束は受けていなかったこと、配車待ちの休憩時間中の過ごし方は、運転手らに任されており、各運転手が、それぞれの場所、方法で、自由に休憩時間を過ごしていたこと、原告会社から生コン納入現場までの経路は、運転手らの判断に任されており、特に指示はされていなかったことが認められ、右事実を総合すれば、成進と運転手らとの間には、支配従属関係は認められない。

(三)(1) 成進が、運転手らの出退勤をタイムカードで管理していたことは、原告らも認めるところであるが、右管理は、最低保障を正確に実施する目的で利用されていたにすぎないことは前判示のとおりである。

(2) ミキサー車が、原告会社のプラントと同色(緑)であり、その車体には原告会社名が表示されていること、成進が運転手らに社名入りの制服(半額負担)やヘルメットを支給していることは、原告らも認めるところであるが、これは、運転手らが成進と契約を締結し、原則として原告会社の製造した生コンを運送するものであることから、対外的な宣伝効果を狙ったものであると共に、運転手らに責任を自覚させる意味もあったと認められるのであり、右事実をもって、成進が運転手らを支配し、従属させていたとは認めるに足りない。なお、ミキサー車の車体の原告会社名の表示については、原告会社から成進及び運転手に対し、看板料が支払われている(〈証拠略〉)。

(四) したがって、成進と日本一分会員らとの間の契約関係は、労働契約ではなく、請負契約の性質を有する運送委託契約であると解するのが相当である。

5(一)  次に、被告らは、原告会社は眞壁組の生コン製造部門にすぎないなどとして、原告会社が日本一分会の(ママ)使用者である旨主張するので、検討する。

前記認定の真(ママ)壁組、原告会社及び成進の関係を見るに、右三社は、いずれも別個の法人格を有し、独立の営業活動をする株式会社であるということはできるものの、原告会社及び成進の法人格は形骸化したものであって、それゆえ、原告会社は眞壁組の生コン製造部門にすぎず、また、成進は眞壁組の生コン運送部門にすぎないとは到底いうことはできないから、被告らの右主張は採用できない。

(二)  もっとも、眞壁組のパンフレット(〈証拠略〉)は、原告会社を「子会社」と表現し、「昭和六〇年一〇月、私ども眞壁組は、日本一生コンクリート株式会社という力強いパートナーを得ることができました。」と紹介しているが、原告会社が眞壁組の商法上の子会社でないことは前記認定のとおりであるところ、右パンフレットは、顧客拡大のために自社をアピールする目的で作成されたものであり、多少の誇張表現がされることもあるのであるから(ただし、前記一1(一)認定の原告会社の成立経緯からすれば、眞壁組が原告会社をパートナーと紹介することは、あながち不適切な表現ではない。)、右パンフレットの記載をもって、原告会社が眞壁組の生コン製造部門にすぎないとすることはできない。

(三)  原告会社の製造する生コンの運賃が、眞壁組から直接成進に支払われていることは前記認定のとおりであるが、右支払方法が採られるようになったのは、そもそも運転手らの要望を眞壁組及び原告会社が受け入れた結果であること、その際、眞壁組と原告会社との間で右念書(〈証拠略〉)が交わされていること、右運賃の請求は、成進から原告会社へ(〈証拠略〉)、原告会社から眞壁組へ(〈証拠略〉)されていることに照らせば、眞壁組から成進への直接支払の事実をもって、原告会社及び成進を眞壁組の一部門にすぎないとすることはできない。

6  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告会社が日本一分会員らとの関係で、労組法上の「使用者」に当たるとは認められない。

三1  仮に、原告会社が日本一分会員らとの関係で、労働法上の「使用者」に当たるとしても、被告組合の前記認定の一連の行為につき、違法性が阻却されるためには、右一連の行為が労働組合の使用者に対する正当な争議行為であると認められなければならない。

被告組合は、平成二年四月一一日、ストライキ宣言をし、右一連の行為を開始したものであるところ、ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労働供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を制圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されない。

すなわち、労働者側が、ストライキ期間中、非組合員等による営業用自動車の運行等を説得活動の範囲を超えて、実力行使により阻止し、ひいては会社の業務遂行を事実上不可能ならしめるようなことは許されないというべきである(最高裁平成四年一〇月二日第二小法廷判決・裁判集民事一六六号一頁参照)。

2  前記認定の事実によると、被告組合は、連日、原告会社泉大津工場の正門前に被告組合の車両を停車し、多数の組合員でピケを張るなどして、ミキサー車の出入りを妨げ、同工場のセメント送圧(ママ)口に被告組合の車両を停車して、同工場へのセメントの入荷を妨害し、また、右工場構内に被告組合の車両を進入させ、バッチャープラントの下に停車させて、ミキサー車への生コンに(ママ)積込みを妨害するなどの実力をもって原告会社の業務運営を事実上不可能ならしめたのみならず、その過程で、原告吉川や非組合員に対し、暴行を加え、傷害を負わせるなどしたものであり、被告組合の右一連の行為は、到底相当な争議行為とは認められない。

四  よって、いずれにしても、被告組合の右一連の行為は、労働組合の使用者に対する正当な争議行為であるとは認められず、右一連の行為につき違法性が阻却される旨の被告らの主張は採用することができない。

第三  原告らの損害賠償請求について(請求原因7ないし9)

一  原告会社の損害

1  売上高減少による損害

原告会社は、被告組合に(ママ)執拗な業務妨害行為により平成二年四月度から同年一〇月度までの原告会社の売上高が大幅に減少した旨主張し、前年同期間の出荷実績からの減少立米数(二万七五七七立米)を基に損害額を算出し、原告会社出荷実績表(〈証拠略〉)には、平成二年四月度から同年一〇月度までの原告会社の出荷実績が、前年同期間から原告主張のとおりの立米数が減少した旨の記載があり、原告吉川は、同旨の供述をする。

しかし、右出荷実績の減少を客観的に裏付ける証拠がないばかりではなく、仮に原告会社主張どおりの出荷実績の減少が認められるとしても、原告会社の生コン出荷量は、真(ママ)壁組からの受注量の増減、ひいては建設会社等の生コン需要量の増減によって増減するものであるところ、大阪兵庫生コンクリート工業組合(以下「工業組合」という。)作成の出荷速報(〈証拠略〉)によっても、大阪府の生コン需要量は、昭和六三年から平成二年にかけて減少傾向にあることが認められ、加えて、当庁が、平成二年一一月六日、被告組合に対し、妨害行為の禁止を命じる決定をした(〈証拠略〉)以降も原告会社の出荷実績には大きな変動がみられないこと(〈証拠略〉)に照らすと、右出荷実績の減少と被告組合の業務妨害行為との間の相当因果関係を認めるに足りない。

なお、原告吉川の陳述書(〈証拠略〉)には、平成元年から平成二年にかけて大阪府の非工業組合員の出荷数量は増加している旨の記載があるが、大阪府の生コン需要量が減少傾向にあったことは前判示のとおりであり、非工業組合員の出荷数量が暫増していることをもってしても、前記認定を覆すに足りない。

2  光明台小学校増築工事生コン撤去による損害

原告会社は、被告組合の妨害行為により、光明台小学校の増築工事の中断を余儀なくされ、既に打設していた生コンを撤去せざるを得なくなったことにより、撤去費用相当額の一九二二万四一九六円の損害を被った旨主張し、(証拠略)によれば、原告会社は、右撤去費用として一九二二万四一九六円を支出したものと認められる。

しかし、前記認定の事実によれば、原告会社が、右工事の中断を余儀なくされ、打設済みの生コンを撤去せざるを得なくなった直接の原因は、原告会社が和泉市の禁止する混合生コンによる工事を行ったためであるから、被告組合による妨害行為と右撤去との間には相当因果関係はない。

よって、原告会社は、被告組合に対し、右撤去費用を請求し得ない。

3  信用毀損による損害

被告組合が、平成元年七月以降、原告会社と取引関係にある建設会社に対し、原告会社を中傷する内容の要請書を交付したこと、被告組合員六、七名が、平成二年五月一四日午前一〇時前ころ、村本建設の工事現場に宣伝車で訪れ、その後、多数の組合員を動員して、右工事の進行を妨げたこと、被告組合の原告会社の取引先に対する右のような妨害行為により、原告会社は、多くの取引先から取引を停止されるに至ったことは前記認定のとおりである。右認定事実に照らすと、被告組合の違法行為により、原告会社の信用が毀損されたことは明らかであり、右損害を回復するための金額としては二〇〇万円が相当である。

4  弁護士費用

原告会社は、本件訴訟の遂行を原告代理人に委任した。その費用及び報酬としては、本件事件に照らし二〇万円が相当である。

二  原告吉川の損害

1  慰謝料請求

組合員らが、平成二年四月一一日、原告吉川に対し、暴行を加え、約一週間の加療を要する右膝打撲擦過創、両上腕打撲傷を負わせたこと、被告組合が、原告吉川を誹謗中傷する内容のビラを作成し、広く市民に配布したことは前記認定のとおりである。右認定事実に照らすと、被告組合の右違法行為により、原告吉川が精神的苦痛を蒙ったことは明かであり、右苦痛を慰謝するための金額としては五〇万円が相当である。

2  弁護士費用

原告吉川は、本件訴訟の遂行を原告代理人に委任した。その費用及び報酬としては、本件事件に照らし五万円が相当である。

三  よって、原告会社は、被告組合に対し、不法行為に対する損害賠償請求権に基づき、二二〇万円の支払いを、原告吉川は、被告組合に対し、同請求権に基づき、五五万円の支払いを求めることができる。

第四  被告組合による妨害行為の差止め請求について(請求原因9)

一  営業権に基づく差止請求権は、第三者による営業妨害行為が、現に継続して行われ、かつ、将来にわたって継続して行われる蓋然性が相当程度高い場合において認められるものと解するのが相当である。また、営業活動に使用する施設が不当に侵害された場合においても、右と同様に解するのが相当である。

二  本件において、被告組合の原告会社泉大津工場に対する一連の行為が不法行為に該当し、原告会社が、被告組合に対し、右損害賠償請求をなし得ることは前判示のとおりである。そして、当庁が、原告会社のした仮処分申請つ(ママ)き、平成二年一一月六日、原告会社が一〇〇万円の保証を立てることを条件として、申請どおり妨害行為の禁止を命じる決定をしたこと、右仮処分決定にもかかわらず、同月二〇日、被告組合が、約七〇名の組合員を動員して泉大津工場に押しかけ、同様の妨害行為をしたことは前記認定のとおりである。

しかし、被告組合による妨害行為から本件口頭弁論終結日(本件記録上、平成七年一二月二二日であることは明らかである。)までの間に、五年以上を経過していること、その間、原告らは、被告組合によって同様の妨害行為を受けた旨を主張しておらず、また、被告組合による妨害行為があったと認めるに足りる証拠がないこと、本判決において、前記のとおり被告組合の行為を違法であると判示し、損害賠償を命じていることなどの事情に照らせば、被告組合の原告会社泉大津工場に対する妨害行為が現に継続しており、また、将来にわたっても継続する蓋然性が相当程度高いものと認めることはできない。

四(ママ) よって、原告会社は、被告組合に対し、右妨害行為の差止めを求めることはできない。

第五  結論

以上の次第で、原告会社の請求は、被告組合に対する二二〇万円の損害賠償請求及びこれに対する最終不法行為日以降である平成三年一月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金請求(ママ)の支払を求める限度で、原告吉川の請求は、被告組合に対する五五万円の損害賠償請求及び右同日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金支給の支払を求める程度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行宣言につき、同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官大竹たかし、同髙木陽一は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 松山恒昭)

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